起業」女子 〜コロナ禍でも前向きに生きる〜 第13回

結婚、出産、転勤、転職、さらに離婚、再婚……。さまざまな人生の転機に、生き方や活躍の場を模索する人たちは多い。しかし、自身で新しくビジネスを立ち上げるのは、容易なことではない。近年、自らの夢を叶えるべく起業した女性たちを取材。明るく前向きに努力を続ける姿は、コロナ禍における希望の光でもある。彼女たちの生の声を聞き、その仕事ぶりや日常に迫る。

モデルウォークで日本を変えたい!
東京モデルズプログラム チーフインストラクター
羽戸せれなさん

取材・文 伊藤ひろみ
写真提供 東京モデルズプログラム

 2022年4月某日。東京・南池袋のイベントスペース・ゲキパでは、「ナタミラクル瞬間英会話」の撮影が行われていた。ひとみんこと恵中瞳(えなかひとみ)さんに英語指導しているのが、羽戸(はねど)せれなさん(39)。せれなさん流のアプローチ、歌と体操で英語の力をつけようという試みである。撮影内容は、Youtubeで動画配信されている(2017年「ナタミラクル瞬間英会話」(南雲堂)と題した英会話教材も出版)。

羽戸せれなさんの本業はランウェイ・スーパーモデル。ファッションショーなどでステージ上を歩き、デザイナーが提案した服やアクセサリーの魅力を伝えるプロフェッショナルモデである。高校生のころ、スカウトされたことがきっかけだった。プロを目指すべくレッスンを受けるようになったが、どこか物足りなさや違和感を抱きながらの日々が続く。

スタイル抜群に加え、歩く姿がまた魅力的。鍛え抜かれたボディで勝負する羽戸せれなさん

大きな転機となったのは、20歳のとき。日本を脱出し、アメリカへ渡った。外国、とりわけアメリカへの憧れが強かったからだという。どうせやるなら本格的に、と一念発起。サンフランシスコでモデル修行を始めたのである。

モデルとは、単に美しく歩く、華麗に見せるといった表面的なことにとどまらない。内面を磨き、自分をアピールしたり、交渉したりする言葉も鍛える必要があると気づき、多方面に貪欲に学んだ。生活費やレッスンフィーなどが底をつくと日本へ戻り、アルバイトで資金を調達。工場で働いたり、パーティコンパニオンをしたり、できる仕事は何でもやった。「学ぶ」と「稼ぐ」を繰り返しながら、数か月単位で日本とアメリカ行き来した。たどたどしかった英語も、やがて不自由なくこなせるようになっていく。さらに、知人のアメリカ人に日本語を教えてほしいと依頼された。英語で文法を説明したり、やさしい言葉に言い換えたりするなど、言語の違いに向き合ったことも、英語の力をつけるのに大いに役立ったという。「チャンスと思ったことはとことんやる!」 そんな彼女の熱い思いが高じ、通訳の勉強に着手するまでになった。

アメリカでのウォーキングレッスン風景。胃をきゅっと持ち上げ、背筋を伸ばし、歩幅を取るのがポイント

「もともと日本は好きじゃなかった」という羽戸せれなさん。だが皮肉にも、外国に身を置くことで、改めて日本人であることを意識し、日本を背負うことになっていったようだ。外国人への日本語指導に加え、日本の武術がアメリカでも求められていると知り、武術(マーシャルアーツ)も教え始めた。そのひとつが空手。中学生のときから始め、黒帯を持つほどの腕前だったことが功を奏する。現地の人たちに請われ、レッスンプログラムを開始。モデルとしても、アメリカでオーディションを受けるなどしながら、活躍の場を広げていった。

オーディションのリハーサル風景。本番に向けて、入念にチェックする

2012年は、一気に飛躍の年となる。ニューヨークで開催されたオーディションに出場し、上位で入賞する。長年、踏ん張り続け、あれこれ地固めしてきたアメリカで認められた。このことは、彼女の大きな自信につながった。そして、モデル養成事務所を起業したのが、この年の8月。これまでに培った知識と経験をもとに、後継者育成にも力を注ぐ。

さらに、2022年。ニューヨークコレクションに出場を果たし、ついにスーパーモデルとなった。今後はデザイナー直属のモデルとして、世界4大コレクションでもその姿を見ることができそうだ。

現在、「スーパーモデル、セレーナ」の名のもと、現役モデルとして自身の世界を広げるのはもちろん、日本にファッションショー文化を築き上げたい、海外コレクションに出場可能なモデルを育てたいと意気込む。スーパーモデルトレーニングクラスは、2022年5月に開講予定。また、一般の人に向けて、美しく歩くレッスンも行っている。さらに、空手やヌンチャクなどの武術指導をしたり、語学教師として英語を教えたり、モデル、語学、武術をキーワードに、幅広く自身のビジネスを展開する。

取材当日、黒革のピタピタパンツで登場。すらりと伸びた細い足に、思わず見とれてしまう。上背があり、手足が長く、もともと恵まれた体躯ではあるが、スリムでしなやかなボディを保つため、隠れた努力を積み重ねてきた結果によるところが大きい。何より、背筋を伸ばしてすっくと立つ姿、そして歩き方が実にかっこいい。

ゆるみきった体型や姿勢の悪さなど、イベントスペース内の鏡に映った私の姿との落差に愕然していると、彼女からの檄が飛ぶ。「日本人女性は美しい。もっと自信を持ちましょう!」さらにこう付け加えた。「ウォーキングのレッスン、受けてみない?」

どんな衣装も着こなせるボディはもちろん、芯の通った女性として努力を重ねる日々が続いている

東京モデルズプログラム
TEL:090-6513-0609
lashuttle@i.softbank.jp

[ライタープロフィール]

伊藤ひろみ

ライター・編集者。出版社での編集者勤務を経てフリーに。航空会社の機内誌、フリーペーパーなどに紀行文やエッセイを寄稿。2019年、『マルタ 地中海楽園ガイド』(彩流社刊)を上梓した。インタビュー取材も得意とし、幅広く執筆活動を行っている。立教大学大学院文学研究科修士課程修了。日本旅行作家協会会員。近刊に『釜山 今と昔を歩く旅』(新幹社)。