赤毛のアンのお茶会 第27回

第27回 アンは日本の少女にどんな影響を与えたか?

 南野モリコ

プリンス・エドワード島のクロッカスの写真に癒されている今日この頃です。今月は、アンが日本の読者に与えた影響について深読みしてみました。暗いニュースが続きますが、このコラムでほんの少しでもアヴォンリー村の風を感じてもらえたら嬉しいです。

イラスト:夢野みよこ

アンの世界には少女の「真似したい!」が詰まっている

L・M・モンゴメリ原作『赤毛のアン』は、プリンス・エドワード島のアヴォンリー村でグリーン・ゲイブルズという農場を営むマシューとマリラ初老の兄妹のところに、〈男の子と間違って〉女の子のアンが孤児院からやってきたところから物語が始まります。

筆者モリコは個人のTwitter(モンゴメリ『赤毛のアン』が好き!ID @names_stories)にて、読者のみなさんから『赤毛のアン』との出会いについて伺っています。私の調べでは、村岡花子訳の文庫本もさることながら、日本アニメーションの『世界名作劇場』シリーズから入ったという方が圧倒的に多いですね。

興味深いのは、村岡花子訳の原作本から入った人もアニメから入った人も、「母の愛読書をプレゼントしてくれた」「友だちから勧められた」「アン好きの親友とプリンス・エドワード島旅行をした」など、リアルな体験と結びついていることです。

『赤毛のアン』は読書という内省的な体験だけで終わらず、何か現実的に行動したくなる、小さな自立を促す作品ではないかと深読みしています。

映画や小説に影響されて何かを始める人は多いと思います。大人への階段を上り始めた少女であれば尚更のこと。筆者モリコも『あしながおじさん』を読んでは文通を始めてみたり、『アンネの日記』を読んでは日記をつけ始めたり、文学世界のヒロインのやることは一通り真似したものです。

その中でも『赤毛のアン』は別格でした。料理やお菓子作り、パン作り、お茶会のおもてなし、手芸、パフスリーブのような素敵なお洋服を着てのお出かけなど、少女が「真似したい!」「やってみたい!」と心ときめかせるトピックが詰まっていますから。

これを読んでいるアン・フリークの皆さんも「私もやってみたい!」と、レイヤーケーキを作っておもてなしをしたり、手芸をしたり、高い目標をもって勉強に励んだりしたのではないでしょうか? アンをテーマにした料理や手芸の本、英語の教材が数多く出版されていることがそれを物語っています。

『赤毛のアン』は、少女たちにライフスタイルを紹介するだけでなく「真似したい」と行動に移させる力を持っています。それも「ママに買ってきてもらう」のではなく、「自分でやってみたい」です。それはきっと、アンが大好きなアラン牧師夫人のために心を込めて作ったレイヤーケーキに痛み止めの塗り薬を入れてしまうような失敗の名人だから、初挑戦のハードルを低くしているからでしょう。

文学に描かれている素敵なものを自分でも作ってみたくなる、そして実際にその一歩を踏み出す。アンは日本の少女に、夢への一歩を自分で踏み出すきっかけを作っていると深読みしました。

1952年、村岡花子氏の翻訳により日本に紹介されて以来ずっと、アンは日本の少女の自立を後押ししてきたのかもしれません、と言ったら大げさでしょうかね。

究極の夢は「グリーン・ゲイブルズを作ること」

ところで、少女モリコの究極の夢は、グリーン・ゲイブルズを作ることでした。

部屋には本棚があり、お茶とお菓子があり、地元の人たちがやりかけの手仕事や好きな本を持ってやってきて、人とゆるく繋がりながらそれぞれの時間を過ごすような場所を作りたいな、と。

私の妄想はただの妄想で終わりましたが、アンやデイヴィ、ドーラが幸せになったように、そこに集まる人たちの幸せを願って作られた「グリーン・ゲイブルズ」が本当にありました。

埼玉県上尾市にある「領家グリーンゲイブルズ」(NPO法人みのり/代表:加藤木貢児)。視覚障害を持つ人たちが通う作業所で、コーヒー豆を「耳」で焙煎して販売しているのです。

NPO法人を立ち上げた当時に代表を務めていたOさんが『赤毛のアン』のファンで、「アンが育ったグリーン・ゲイブルズのように、集まる人みんなが幸せになって欲しい」との想いが込められています。

作業所も畑に囲まれた緑豊かな場所にあることから「領家グリーンゲイブルズ」に決まったのだそうです。

時節柄、現地に足を運ぶのはいつかのお楽しみにとっておくことにして、ホームページの写真を拝見すると、作業所の建物も緑色の三角屋根。本物の「グリーン・ゲイブルズ」です。

元代表のOさんは、お嬢さんにもアンにちなんだ名前をつけたほどの熱心なアンの読者だそう。もしかしたら、いえきっと、『赤毛のアン』と共に少女時代を過ごし、いつかグリーン・ゲイブルズを作ることを夢見たかもしれないと想像をめぐらせました。

こんな風にアンによって「やってみたい」好奇心の背中を押されて一歩を進めた少女は、少なくないと思います。

アンは、少女に潜在的に宿る「自分でやってみたい」を優しく後押ししている作品なんですね。ま、単なる深読みですけどね。

参考文献
モンゴメリ著、松本侑子訳『赤毛のアン』(文藝春秋、2019年)

[ライタープロフィール]
南野モリコ
『赤毛のアン』研究家。慶應義塾大学文学部卒業(通信課程)。映画配給会社、広報職を経て執筆活動に。
Twitter:モンゴメリ『赤毛のアン』が好き!ID @names_stories