スージー鈴木のロックンロール・サラリーマンのススメ 第3回

第3回 「ひらがな・やまとことばの術」で話のプロになる

スージー鈴木

サラリーマンでもロックンローラー(表現者)になれるんだ、いや、サラリーマンだからこそロックンローラーになれるんだという奇妙な主張をする連載の第3回。

前回は、「語順」=書き言葉の話をしましたが、今回は話し言葉です。今やサラリーマンの基本動作の1つであるプレゼンテーション。プレゼンにおける表現力を鍛えておけば、 ロックンローラーになって、テレビやラジオに出たときにも、話がびんびん伝わります。

さて、突然ですが──「京浜東北線はただいま運転を見合わせています」。

なかなかオンラインに切り替えられないサラリーマンにとっては、地獄の言葉ですね。あー、また会議に遅れるよと。でも、です。こう言われるより、イライラ度は低くありませんか?──「京浜東北線はただいま運転中断中です」。

「中断」という、情け容赦のないカクカクした言葉ではなく、「見合わせる」という、運転手と車掌がお互いを見つめ合いながら、まじめに相談している様子が浮かぶ、ちょっと柔らかい、人肌を感じる表現──。

ビジネス界は、「中断」的な熟語の世界です。熟語ワールド。もっと言えば漢字ワールドで、また、ある種の業界では「デジタル・トランスフォーメーションをアクティベートするプロジェクトのリスタート」的なカタカナワールドでもあります。

本文とはまったく関係ありませんが、もうすぐ開幕です(筆者撮影)

だからこそプレゼンでは「見合わせる」的な、ひらがなワールド、言わば「やまとことば」が、実は有用なのです。これに気付かないで、熟語を棒読みしている人があまりに多い。

具体的には、例えば熟語・漢字・カタカナワールドが書面に書かれているとして、もしくはパワーポイントのスライドで投影されているとして、話し言葉では、ひらがな・やまとことばワールドで話す。

そうすると、視覚(書面・投影)が熟語・漢字・カタカナ、聴覚(プレゼン・話し言葉)がひらがな・やまとことばとなり、視覚と聴覚が相乗効果を持った、いわば「ステレオ」として、伝達力がぐっと高まるのです。

「ひらがな・やまとことばの術」による「ステレオ」効果

「プロジェクトの推進を再検討するべきと判断」と書いたパワポが投影されているとします。そのときに、この文字列をそのまま棒読みしてしまうと、視覚・聴覚の相乗効果がまったく得られません。「モノラル」になってしまう。

そうじゃなくって、「プロジェクトの推進を再検討するべきと判断」と書かれていたら、話し言葉では「プロジェクトを進めるのはいったん見送った方がいいと考えます」とする。ほら、「ステレオ」になって伝わる感じがしませんか?

もっと端的な例。例えば「認知率は66.7%」というデータが投影されているとして、このときも棒読みは最悪。数字をまるめて「67%でした」「約7割でした」というのもまだ甘い。プレゼンのプロフェッショナルはこう言います──「知っている人の割合は66.7%、つまり3人に2人くらいでした」。

この「ひらがな・やまとことばの術」は、話し言葉だけでなく、書き言葉にも転用できる場があります。

「現状の延長として未来を考えるのではなく、先に規定した望ましい未来から、現状を規定していく」という、コンサルティング業界とかでたまに使われる「バック・キャスティング」という考え方があります。

うーむ、カタカナワールドで、どうも概念的だ。

日本語で考えると「未来からの『逆算』」となりますが、これもまだ熟語・漢字ワールドで、今一つしっくり来ない。なので──

「現状の延長として未来を考えるのではなく、先に規定した望ましい未来から、現状を『逆上がり』しながら規定していく」

これで伝わった。このように書き言葉でも、ここぞというところで「ひらがな・やまとことばの術」を使うと、格別な効果を発揮することがあります。

ただし、「現状の延長として未来を考えるという『前回り』ではなく、先に規定した望ましい未来から、現状を『逆上がり』しながら規定していく」は、やり過ぎですけど。

サラリーマン生活30年間で、たぶん数百回、もしや千を超えるプレゼンをしてきたと思いますが、その経験を踏まえて、プレゼンでいちばん大事なことを聞かれたら、私は、この「ひらがな・やまとことばの術」だと答えます。

ロックンローラーの話に戻しましょう。そうです。人前に出て話すときは、極力「ひらがな・やまとことばの術」で話すべきなのです。

だってそもそも、ラジオで「コウシン」と言ったら、それ、更新か行進か交信か口唇か庚申か甲信か香辛か功臣か紅疹か高信太郎か、分からないですからね。

サラリーマンとしてのプレゼンの場で、話し言葉として「ひらがな・やまとことばの術」を、ちゃんと身に付ける。これが、ロックンロール・サラリーマンへの道ですし、そもそもプレゼン自体の品質をコウシン(更新)する最良の方法なのです。

「ひらがな・やまとことばの術」でいいプレゼンをして、いいDJになろう。

大阪ラジオ界のレジェンド=浜村淳は、「離婚率」という熟語、それも「未婚率」と空耳しがちな面倒くさい熟語をラジオで話すときに、こう言い添えました。これぞプロフェッショナル、これぞレジェンド──「離婚率ですよ。未婚率じゃないですよ。リンゴのリですよ。ミカンのミじゃないですよ」。

[ライタープロフィール]

スージー鈴木(すーじーすずき)

音楽評論家、小説家、ラジオDJ。1966年11月26日、大阪府東大阪市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。音楽評論家として、昭和歌謡から最新ヒット曲までを「プロ・リスナー」的に評論。著書・ウェブ等連載・テレビ・ラジオレギュラー出演etc多数。
著書…『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ 1978-1985』(新潮新書)、『カセットテープ少年時代』(KADOKAWA)、『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)、『1984年の歌謡曲』(イースト・プレス)、『【F】を3本の弦で弾く ギター超カンタン奏法』『1979年の歌謡曲』『80年代音楽解体新書』(いずれも彩流社)。近著に『ザ・カセットテープ・ミュージックの本』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)、『恋するラジオ』(ブックマン社)。
ウェブ連載…「東洋経済オンライン」「FRIDAYデジタル」「水道橋博士のメルマ旬報」など。