耳にコバン 〜邦ロック編〜 第20回

第20回「ボーカロイド入門」

コバン・ミヤガワ

 

ボクは「ボカロ」というものをこれまで全く聴いてこなかったので、年下の人と音楽の話をすると、当たり前のようにボカロの話題が上がることにビックリする。もちろん、どんなものかは分かるし、有名な曲のいくつかは知っている。

しかし「あのPの曲はいい」とか「歌い手だったらあの人がいい」とかいう話になると、いよいよ何を言っているか分からんのである。

ボクが中学高校の頃だった2000年代半ば〜2010年代はじめくらいは、まだボカロというものはいわゆる「オタク文化」のものであったし、マイナーなものであったように思う。何より、膨大な曲のどこから聴けばいいのか、とっかかりがなかった。

ところが気がつけば、こんなにもメジャーなコンテンツになっているのだ。これじゃあいかんと思い、最近はボカロにも知見を広げている。

ここで、ボカロを知らない方にもボカロとは何なのか、今一度説明したい。入門的に解説できればと思う。

「ボカロ」とは「ボーカロイド」の略称で、一言で言えば「歌を歌ってくれるパソコンのソフト」である。歌詞と音程をプログラムすれば、ひとりでに歌ってくれるのである。もっとも有名なものは、2007年に発売された「初音ミク」という女の子の声をしたボーカロイドである。皆さんも一度は見たことがあるであろう、水色の髪のツインテールの少女が歌ってくれるのだ。「二次元のキャラクターが歌っている」。この設定こそが「オタク文化」において、ボカロが受容された所以だろう。

ボーカロイドを使えば、誰でも歌わずに曲を作ることができる。どんなに歌に自信がなくても、ボカロを使えば、歌を曲に組み入れることができる。つまり、ロックであろうが、ポップであろうが、何なら演歌だってボカロで作ることができるのだ。初音ミクを使った曲が全て「初音ミク」というアーティストの楽曲というわけではない。あくまでもツールのひとつであり、「ボカロ曲」の中に多様なジャンルが存在する。この点が何とも分かりにくく、ボクがとっつきにくかった理由だろう。

このボカロを使って作曲する人のことを「ボカロP」と呼ぶ。PとはプロデューサーのPだ。プロ、アマチュア関係なく誰でもボカロPになることができる。

ボカロを使う上で憂慮すべき点は「声が一緒」ということだ。誰がボカロの曲を作ろうが、声はボカロなので、差別化ができない。人が歌うのであれば、歌声で「あ、桑田佳祐だ!」とか「この声は井上陽水だ!」なんて分かるものだが、ボカロの場合、「誰でも使える」というメリットがある一方、「どの曲でも声色は一緒」というデメリットが内在する。

そこでボカロPは、歌詞、メロディー、世界観にこだわることにより差別化を図る。浅い知識だが、ボクの好きなボカロPは「宇宙」を一貫したテーマとして曲を作っている。一貫したテーマや、曲と曲に繋がりのある物語形式のものがあったりするのは、ボカロならではの発展であり、楽しみ方のひとつと言えるだろう。

ボカロを使って作られた曲を「実際に歌う」というカテゴリもある。この人たちのことは「歌い手」と呼ばれ、歌い手として有名になった人も多い。歌い手は、ボカロ曲のみならず、アニソンなどの幅広い曲をカバーしている。何年か前に、歌手の小林幸子が紅白歌合戦でボカロ曲の「千本桜」を披露していた。小林幸子もある意味「歌い手」と言える。

「ボカロ曲」を作る人もいれば、歌う人もいる。知らない人にしてみれば、なかなか複雑な構図なのだ。

ボカロPや歌い手がここまで認知されるようになったのは、ネットの発達が大きく影響している。動画投稿サイト等でイラストとボカロの曲を合わせた動画や、いわゆる「歌ってみた動画」と呼ばれる動画を公開することで、誰でも世界中に自分の表現を発信できるようになったのだ。

このようにボカロは、純粋に音楽として楽しむのみならず、その世界観、ストーリー性を楽しんだり、好きなボカロPや歌い手を応援するも良し、キャラクターとしてのボカロを楽しむなど、音楽ジャンルのひとつに留まらない大きなカルチャーになっている。

知ってみると案外いいもんです。

なぜボカロの話をしたかというと、今回紹介するバンドはボカロにも大きな影響を与えているからだ。

バンドブームの熱が冷めつつあった2000年代初頭、とあるバンドのある曲が大ヒットした。そのバンドが作り出した新たな価値観は、邦ロックを次のウェーブへと押し上げることになる。

そのバンドの名前はBUMP OF CHIKEN(バンプ・オブ・チキン)。2001年にリリースされた「天体観測」で一躍脚光を浴び、今や日本を代表するバンドになった。

バンプ・オブ・チキン(以下バンプ)は1994年に結成された4人組のバンドである。1990年代初頭はいわゆる「第二次バンドブーム」の時期であり、テレビ番組『イカ天』(「たま」の回に紹介)を火付け役として、たくさんのバンドが結成された時期である。バンプも、その波に少し遅れて結成したのだ。

そして2000年代初頭、バンドブームの熱が冷めていくのと時を同じくして、人気バンドも次々に解散や活動休止を発表していく。ナンバーガール、ブランキージェットシティー、ハイスタなどボクが紹介してきたバンドも、この頃数多く解散や休止を宣言している(その頃まだ10歳にもなってないぞ! なんでもっと早く生まれなかったのだボクは!)。

世紀の変わった2000年のはじめは、まさに邦ロックにおいて大きな変革が起きた時期だと言える。

そんななか、2001年にドラマの挿入歌としてリリースされた「天体観測」。知っている方も多いだろう。「見えないものを見よ〜として〜」と誰しもが口ずさめるくらい、知名度のある曲だ。

そんな一躍時代の寵児となったバンプ、一体何が魅力なのか。そしてボカロとの繋がりは? 少し掘り下げてみよう。

バンプの魅力はまず、声色だろう。ボーカル藤原基央のあの繊細な歌声。繊細で、しかし芯のある甲高い針金のような歌声。消え入りそうに儚げで、それでいてシャウトすれば鋭く尖る。それまでバンドのボーカルといえば、男らしく、野太いイメージだったが、まさに正反対である。

藤原のバンプの登場以降、藤原の歌声に似たようなボーカルが次々と現れた。まさに青天の霹靂だったのだろう。

歌詞の世界観もまた、それまでの邦ロックになかった魅力である。

ボク的バンプの歌詞のテーマは「有象無象」と「孤独」だ。この2つがバンプの曲の根幹にあると思う。

好きな歌詞の一部を見ていきたい。

 

汚れちゃったのはどっちだ 世界か自分の方か

いずれにせよその瞳は開けるべきなんだよ

それが全て気が狂う程 まともな日常(「ギルド」)

 

悲しみは消えるというなら

喜びだってそういうものだろう(「HAPPY」)

 

目標なんか無くていいさ

気が付けば後から付いてくる(「ダイアモンド」)

 

あなたが花なら 沢山のそれらと

変わりないのかも知れない

そこからひとつを 選んだ

僕だけに 歌える唄がある

あなただけに 聴こえる唄がある(「花の名」)

 

一貫しているのは「孤独である」とか「自分の無力さ」を否定してくれない点だ。あくまでも「人間なんてそんなもんだろ」というネガティブな立ち位置から世界を描いている。ネガティブであることの肯定。これがバンプの特徴である。

この独特な世界観が若者の心を掴んで離さなかったのだろう。ボクもその一人だ。

そんなバンプ、ボカロとの繋がりも深い。

何を隠そう、バンプに影響を受けたボカロPは数多い。今、時の人である米津玄師も、元々は「ハチ」名義でボカロの曲を作っていたボカロPである。その米津玄師が影響を受けた人物として、バンプの名前を挙げている。

他にも、ボカロの歌詞の世界観を見てみると、バンプの歌詞のような、ネガティブなイメージの曲が数多く見られる。自分の鬱屈とした想いをボカロに反映させているのだ。それを後押ししたのは、言うまでも無く、バンプの曲たちなのだろう。

2014年には「ray」という曲で、初音ミクとコラボレーションもしている。やはり、ボカロとバンプには、切っても切れない関係があるのではないだろうか。

「君は特別!」よりも「特別なんかじゃない。それでもいいんだよ」と背中を押してくれる曲。「君は一人じゃない!」よりも「人間は孤独だよ。それでも歩け」と何かに気がつかせてくれる曲。

気になった方は、代表曲の「天体観測」が収録されている『jupiter』というアルバムをオススメしたい。

 

 

個人的にはその次にリリースされた『ユグドラシル』もあわせてオススメしておく。

 

 

こちらは、ブルーグラスのような、爽やかなカントリー調の曲が多く、これがまた藤原のボーカルと相まって美しいアルバムに仕上がっている。

「元気をくれる」というよりは「元気の芽が生える」。そんなロック。それが美しきバンプの世界なのだ。

 

 

[ライタープロフィール]

コバン・ミヤガワ

1995年宮崎県生まれ。大学卒業後、イラストレーターとして活動中。趣味は音楽、映画、写真。
Twitter: @koban_miyagawa