耳にコバン 〜邦ロック編〜 第18回

2022年2月15日

耳にコバン 〜邦ロック編〜 第18回
第18回「バレンタイン・コネクション」

コバン・ミヤガワ

人って、目の前にある物が、持ってみると想像とはかけ離れた重さだった時、思考が一瞬止まるんだ。バレンタインデーにボクはそう気が付いた。

高校1年生の時の話だ。やっぱり2月は、ソワソワするのだ。いくら「ボク甘いもの苦手だからなー」とスカした態度をとろうが、鼻の下は伸びている。「興味ない」と言いつつも、バレンタイン当日の朝は、机の引き出しを一応確認するのだ。しかも奥の方まで入念に。高校男児なんてそういう生き物だ。

ボクには当時付き合っていた彼女がいた。クルクルの天然パーマが可愛らしい子だった。

いざバレンタイン当日。ニヤつく顔を必死で抑え、教室へ向かう。同じクラスだった彼女は、もう教室に着いていた。みんなに挨拶をして席につくと、早速彼女がやって来た。手には何か持っている。「来たっっ!」内心ウキウキだったが、何食わぬ顔で接しなければ。「あれ、今日バレンタインだっけ?」くらいのテンションで話そう(今となっては恥ずかしい限りである)。

「おはよう」とボク。
「おはよう」と彼女。
「ん、これ」と箱を差し出された。箱ティッシュより一回り小さいくらいの大きさだった。
「お、あんがと」と箱を受け取る。

箱を手にした瞬間、ボクの脳はショートした。

ズシンッ!!

その箱がレンガのように重かったのだ。このくらいの重さだろう、という想定で力を入れた腕を、10センチは下げられた。一体、今ボクは何を受け取ったのか。本当にチョコレートが入っているのだろうか? あれ、今日は何の日だったっけ?

「今食べてみてよ」

その一声で、我に返った。あ、やっぱりもらったのはチョコレートか! 今日はバレンタインだ! よかった。

恐る恐る開く。もしかしたら、チョコレート以外のものが入っているのかも。それで重いのかも! 開いてみると、箱いっぱいにギュウギュウの生チョコレートが隙間なく詰まっていた。どうやら箱の内側にラップをして、そのまま生チョコを流し込んだようだった。どうりで重いわけである。ギチギチにチョコレートで、空気入ってないもの。

「ちょっと作りすぎたわ」と彼女。

うーむ、作ってもらっておいて失礼だが、流石にちと多いぞ、これは……

しかし、彼女がせっかく作ってくれたのだ! ありがたく食べよう。

一口食べ「美味しいじゃん! ありがとう」「帰って食べるわ」

こうしてその年のバレンタインは終わった。

元々甘いものが得意ではないボクは、食べ切るのに2、3日かかった。その後、少し体調を崩したことは、ここだけの秘密である。

唐突だが、バレンタインソングというと何が思い浮かぶだろうか? 国生さゆりの「バレンタイン・キッス」やPerfumeの「チョコレート・ディスコ」などの、王道バレンタインソング? もしくは、バレンタインに限らずラブソングが聴きたくなる方もいるだろう。

バレンタインについて書こうと決め、いろんな曲を聴き漁っているうちに、ある疑問が生まれた。

「日本最古のバレンタインソングって何だ?」

日本で初めて「バレンタイン」について歌われた曲は、いつ、誰が作ったのか。

というわけで今月はバレンタインソング特集です! 日本の「バレンタインソング」について深掘りしていきたい。「バレンタインとロック」、一見関わりがないようにも見えるが、邦楽バレンタインソングの始まりには、偉大なロックレジェンドが関係していたのだった!

調べてみると「バレンタインデー」というイベントにフォーカスして歌われた最初の曲は1977年らしい。意外にも新しい。

その曲とは〈いしだあゆみ&ティン・パン・アレイ・ファミリー〉の「バレンタイン・デー」だ。

いしだあゆみといえば「ブルー・ライト・ヨコハマ」が代表曲だが、女優としても有名だ。最近『男はつらいよ』シリーズを観直していたら、寅さんが京都の陶芸家の所に入り浸る回に、マドンナとして出演していた。妖艶で儚くて、色っぽいんだこれが。大原麗子の次に好きだね。

ティン・パン・アレイ・ファミリーは、あまり聴き馴染みないかもしれないが、錚々たるメンバーが揃っている。邦ロック編の第一回で紹介した『はっぴいえんど』の細野晴臣、鈴木茂。音楽プロデューサーの松任谷正隆(ユーミンの夫)など、最強チームなのである! もう名曲の予感……!!

そんな「バレンタイン・デー」は1977年発売の『アワー・コネクション』というアルバムに収録されている。

アルバム自体はすごくポップで、都会的。でも陽気とも言い難い。言うなれば都会の夜、大人の色気。そんな雰囲気のアルバムだ。いしだあゆみの艶やかな声と、心地良いバンドサウンド。これ以上何を求めようか。

そんなアルバムで、日本最古バレンタインはどのように歌われたのか。歌詞の一部を見てみよう。

可愛い娘から 贈り物もない
淋しい男なら 私の所へ
どうぞ遊びにおいで
今夜だけ抱いてあげるわ

バレンタイン・デーの
今日は夜なのよ
淋しがり屋が 私は好き とても好きよ
遠慮しないで ここにおいでよ
淋しがり屋が 私は好きよ ここに……

この曲を初めて聴いた時、ボクは感動した。なぜなら、この曲が「もらった人」でも「あげる人」でもなく「慰める人」の歌だからだ。しかもそこにバレンタインと隣り合う「恋心」も見て取れるからたまらない。

場所はどこぞのスナックかな。チョコも何ももらえなかった男がふらっとひとり、扉を開ける。ママが出迎えてくれる。もちろんいしだあゆみだな。色っぽい声で優しくそっと慰めてくれる。「それでも好きよ……」なんて言われちゃったりして。そんな雰囲気。ボクのお母さんに慰められているのとは訳が違うんだから。

通っちゃいますよここ。週6でこのスナックには通いますよ!!

日本で初めて歌われたバレンタインは、チョコレートなんて一言も出てこないんだ。しかも「ラブソング」なんて簡単な言葉で片付けられない色気と、メランコリックな雰囲気がプンプンするんだ。これもバレンタインのひとつの描き方だ。どうしてもバレンタインを楽しむ男女を描きがちだが、第三者のバレンタイン像。これを曲にするセンス! そして何よりそれを一番最初に表現する才能。

圧巻の1曲である。

[ライタープロフィール]

コバン・ミヤガワ
1995年宮崎県生まれ。大学卒業後、イラストレーターとして活動中。趣味は音楽、映画、写真。
Twitter :@koban_miyagawa
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