赤毛のアンのお茶会 第24回

2022年1月15日

第24回 なぜアンはグリーン・ゲイブルズを愛したのか?

南野モリコ

 遅ればせながら、あけましておめでとうございます。本年も『赤毛のアン』を果てしなく深読みしていく所存です。どうぞよろしくお願いいたします。

年末年始は、久しぶりに実家へ帰省した方も多かったのではないでしょうか。そこで、今回は「アンと家」について考えてみました。ミルクティーで温まりながら、気楽にお読みください。

イラスト:夢野みよこ

アンがマリラに懐いたのはなぜ?

昨年の2021年秋は、松本侑子先生の翻訳による『炉辺荘のアン』(文春文庫、2021年)が出ましたね。『アンの夢の家』でギルバートと結婚したアンが、「夢の家」の次に住むのが炉辺荘(ろへんそう)です。医師になったギルバートがブライス家発展を願って購入した〈夢のマイホーム〉が炉辺荘というわけです。このコラムを読んでいる皆さんも、早速、書店で手にして、村岡花子版ほか旧訳と読み比べて楽しんでいるかもしれませんね。

『赤毛のアン』の冒頭では、グリーン・ゲイブルズが居心地よく整えられている様子や、夕暮れに染まったアヴォンリー村の草木が匂い立つような美しい風景が丁寧に描写されています。一方、『炉辺荘のアン』では、炉辺荘や周囲の街並みより先に飛び出してくるのは、アンが帰るのを心待ちにしていた家族の「おかえりなさい」のハグ合戦です。孤児だったアンが本物の幸せを手にしたのだと分かる場面ですね。

しかし、ふと思い返してみると、『赤毛のアン』第3章で、グリーン・ゲイブルズにやってきたアンを迎えたマリラの態度は、決して優しいものではありませんでした。男の子が来ると思っていたのが、間違って女の子が送られてきてしまった。しかも、交ぜ織りの生地の貧しい身なりで、「私のことはコーデリアと呼んで」などと言い放つ風変わりな女の子だったら、マリラがちょっと距離を置きたくなる気持ちも分からないではありません。

それでも、ノバスコシアという遠方からはるばるやってきた11歳の女の子相手に「孤児院に男の子はいなかったのかい?」だの、夕食が進まないのを見て「全然、食べてないじゃないか」だのと言ったりするのは、あまりに無神経で思いやりがありません。筆者モリコもアンと同じ年頃の小学4年生で初めて読んだ時には、マリラを好きになれませんでした。

もっとも、マリラはグリーン・ゲイブルズで農場を営みながら結婚することなく年を重ねた女性なので、11歳の女の子の扱いに不慣れで、戸惑いもあったでしょう。では、マシューが連れてきたアンに声をかけることもなく、「それは誰? 男の子はどこにいるの」とぶっきらぼうな声をあげるようなマリラに、アンが「グリーン・ゲイブルズに置いて欲しい」と乞い願ったのはなぜでしょうか?

第1章では、リンド夫人が彼女の目から見たグリーン・ゲイブルズの様子を、マリラのプロフィール代わりに詳しくナレーションしてくれています。一日に何度も掃き掃除をしているような塵一つ落ちてない床から、清潔で快適に整えられた部屋が想像されます。整えられた家は、マリラの勤勉さ、人や仕事に対する誠実さを映し出しています。

想像力の豊かなアンは、そんなグリーン・ゲイブルズの佇まいから、マリラの本質を見抜いていたのではないでしょうか。グリーン・ゲイブルズはマリラの両親が建てた家で、ここでマリラは育ち、青春を過ごし、農場を切り盛りしてきたのです。11歳のアンにマリラの青春を想像できたかは謎ですが、グリーン・ゲイブルズという血の通った住まいから、マリラを「腹心の友になれる」と感じ取っていたのではないでしょうか。

だから、口は悪くても、自分を傷つけることはしない、信頼できる大人だと考えたのでしょう。アンにとって、グリーン・ゲイブルズに住みたいということは、マリラと家族になりたいと同義ですからね。ま、単なる深読みですけどね。

グリーン・ゲイブルズはマリラの人生そのもの

『赤毛のアン』の原題はAnne of Green Gables、直訳すると「グリーン・ゲイブルズのアン」です。作者モンゴメリの作品には『アンの夢の家』、『炉辺荘のアン』他、『丘の家のジェーン』、『銀の森のパット』、『可愛いエミリー』(原題はEmily of Newmoon、ニュームーン農場のエミリーの意)と、タイトルに主人公の名前と屋号を並べているものが少なくありません。モンゴメリは女性と家を結びつけて考えていたのかもしれませんね。

シリーズ12作の中で、アンはグリーン・ゲイブルズの他、パティの家、風柳荘、夢の家、炉辺荘と、5つの家の住人になっています。グリーン・ゲイブルズに住んでいたのは、シリーズ3作目の『アンの愛情』まで。グリーン・ゲイブルズはなんといってもマリラの家です。

街道から離れた場所に建てられた緑の切妻屋根の家でマリラは生まれ育ち、農場経営者の一人として、家の中だけでなく、玄関前のポーチも中庭も塵ひとつないように丁寧に掃き上げ、料理を作り、アヴォンリー村での格を保ってきたのです。グリーン・ゲイブルズはマリラ自身と言っても過言ではありません。

マシューが亡くなり、一人では農場を切り盛りできないとグリーン・ゲイブルズを売却しようとしたマリラを、アンは大学進学を諦めてまで阻止しました。

それは、孤児だったアンにとって、自分が住む家と家族を持つことが何よりもの望みだったからに他ありませんが、グリーン・ゲイブルズがマリラの家だったからでもあると思うのです。

マシューとマリラ兄妹の両親が開墾し、二人に遺した家。ここで生まれ育ち、子供の頃から手伝いをし、両親が亡くなってからは、マシューと長いこと経営をしてきた。グリーン・ゲイブルズは単にマリラが守ってきた家である以上に、マリラの人生そのものだからでしょうね。ま、単なる深読みですけどね。

参考文献

モンゴメリ著、松本侑子訳『赤毛のアン』(文藝春秋、2019年)

モンゴメリ著、松本侑子訳『炉辺荘のアン』(文藝春秋、2021年)

[ライタープロフィール]

南野モリコ

『赤毛のアン』研究家。慶應義塾大学文学部卒業(通信課程)。映画配給会社、広報職を経て執筆活動に。

Twitter:モンゴメリ『赤毛のアン』が好き!ID @names_stories

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