赤毛のアンのお茶会 第22回

2021年11月15日

第22回 なぜアンはクイーン学院に進学して教師を目指したのか?

南野モリコ

『赤毛のアン』に魅せられた筆者モリコが、アンへの愛をひたすらつぶやくだけのコラムです。今月はアンと〈職業〉について深読みしてみました。いつものように、ふーん、へえーと、気楽な気持ちでお読みください。

イラスト:夢野みよこ

おしゃべりで愛情深いアンに、「教師」は運命の職業

『赤毛のアン』第33章で、アンはステイシー先生の勧めで、クイーン学院に進学して教師となることを志します。

物語クラブの中心人物で、エレーン姫ごっこでは舟で川に流され、沈没しそうになったこともあるアン。『あしながおじさん』のジュディや『若草物語』のジョーように作家を目指すのかと思いきや、随分と堅実な進路を選ぶものだなとがっかりした読者もいるかもしれませんね。

筆者モリコの調べでは、『赤毛のアン』シリーズには、全12冊を通して約2400名もの人物が登場し、全員が多少なりともアンに関わっています。

ある研究によると、職業は「対人/対物」に大別され、幼少期に人と接することが多いほど、「対人」の職業に就く傾向があるそうです。アヴォンリー村のコミュニティで人びとに揉まれてきたアンが「先生になりたい」と思うのは自然なのかもしれません。亡くなった両親も高校教師でしたね。

孤児時代に子守りに雇われていたことから、子供の世話にも慣れています。勉強家でおしゃべりなアンにとって教師は天職だと思います。

しかし、ステイシー先生が「進学する気があるか」だけではなく、「教師になる気はないか?」と、マリラを通してアンに聞いているのが気になります。クイーン学院に進学する前に卒業後の将来まで決める必要はないですよね。

ステイシー先生は、アンがカスバート家に引き取られた孤児であるという事情を知っていたでしょう。アンに進学を勧めたのは、マシューとマリラの将来のためにも、アンに収入があった方がいいと考えたからではないかと深読みしました。

『赤毛のアン』の時代背景は1880年代。そして出版されたのは1908年というカナダ建国の時代。いわば、国の政治経済ををけん引するリーダーとなるべき人材を育成する時代です。人を育てるためには、その前に教師の育成が必要です。フィリップス先生のように子供に愛情がなくても教職に就けたことから、当時、教師職は絶対的なニーズがあったのだとうかがえます。

アンがクイーン学院を目指したのは13歳。この時マシューは64歳、マリラは恐らく57歳です。農場経営が先細りになる可能性があることもステイシー先生は分かっていたでしょう。将来、アンが経済的にカスバート家を支えられるよう、教師という未来を提案したのではないでしょうか。まあ、単なる深読みですけどね。

「職業を持つ」とは、自分の生き方を選ぶこと?

「働く」ということを考える度、成田美奈子『エイリアン通り』第8巻(白泉社、1984年)の巻末作品『フィリシア』を思い出します。ラストシーンのモノローグ「灯りのともる窓の向こうで誰かが働いている。みんなが誰かのために」は、「働く」ことの本質をついたメッセージです。

アンは、マシューが亡くなったことで、グリーン・ゲイブルズを守るために村の小学校で教師になります。アンは「職業婦人」になったんですね。

ところで『赤毛のアン』の舞台、アヴォンリー村は農村なので、マリラもリンド夫人も、乳しぼりをしたり、りんごを捥いだり、農作業の仕事をしています。でもそれは、アンが就いた教師のような<職業>とは別の物のように見えます。マリラもリンド夫人も、アヴォンリーに生まれた者なら当然の流れで農業に携わるようになった女性です。しかし、アンは、ステイシー先生からクイーン学院進学クラスに入らないかと誘われ、自分の意志で教師になることを選択しています。

つまり、職業を持つとは、自分の生き方を自分で選ぶことではないかと深読みしました。

アンが大学進学を諦め、家に留まる道を選んだことで『赤毛のアン』を自己犠牲の物語と言う研究者もいます。しかし、アンはもともと孤児であり、帰るべき<ホーム>を持つことは、アン自らが渇望したことなのです。さらにいえば、アンは村の小学校の教師になることを「自分で」選んだのです。

そういえば『あしながおじさん』のジュディは作家になれたのに、結局、結婚に依存するシンデレラストーリーで終わりましたよね。『赤毛のアン』の成功は、天涯孤独の孤児アンが家族を手に入れるだけでなく、教師という職業を持ち、自分の人生を自ら選択していくところが読者を惹きつけたからこそ、長く読まれているのでしょうね。まあ、単なる深読みですけどね。

参考文献

モンゴメリ著、松本侑子訳『赤毛のアン』(文藝春秋、2019年)

[ライタープロフィール]

南野モリコ

『赤毛のアン』研究家。慶應義塾大学文学部卒業(通信課程)。映画配給会社、広報職を経て執筆活動に。

Twitter:モンゴメリ『赤毛のアン』が好き!ID @names_stories
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