僕がゲイで良かったこと 第9回

第9回 ゲイであることのメリット・デメリット その3

平良愛香

結婚は幸せだと思っている人は多いでしょう。でもどうしてそう思うの? 僕の周りには必ずしも幸せではない夫婦や、「どうして離婚しないの? 離婚したらいいのに。」と言いたくなるカップルも少なくありません。(ちなみに日本での夫婦が離婚しない理由のトップは、男性は世間体、女性は経済力なのだそうです。それだけ女性が一人で生きていくのがまだまだ難しい国だと言えるのかもしれません。)

一方、離婚して幸せになった人や、結婚していないけど幸せな人もたくさんいます。講師をしている大学でも学生たちによく話すのですが、「離婚というのは幸せになるためにするのだよ」と言うと驚く学生がとても多い。「離婚は不幸なこと」というイメージが必要以上に強く刷り込まれているのを感じます。たしかに「幸せな結婚を続けられなかった」ということは残念なことかもしれませんが、離婚そのものが不幸なのではなく、「このままでは幸せにはならない」と感じた人が、幸せになるために離婚を選ぶのです。ですから僕は、「幸せになるための離婚」を勧めることもよくあります。(あ、すっかり忘れていたかもしれませんが、僕の本業はキリスト教の牧師です。離婚を勧める牧師というのはちょっと珍しがられます)。

ではどうして結婚が幸せだと多くの人は思うのでしょうか。いくつかの理由が考えられます。「一人だと寂しいから」「子どもが欲しいから」「生活を支え合える人がいると安心」「一人だと老後が心配」etc. なるほど〜。でもそれって、結婚しないと得られないものなの? そもそも結婚したら必ず得られるものなの? 一人だと老後が心配と答える学生が意外と多いのですが、結婚すれば老後は伴侶や子どもに世話をしてもらえる、というのは「運」なのかもしれません。自分が世話をする側になる可能性だってありますし、先にパートナーが死んでしまう確率は50%もあります。子どももできるとは限りませんし、その子が世話をしてくれるとも限りません。そういった「必ずしも実現の可能性が高いとは言えない理想」に運をかけていることになるのかもしれないのです。

もちろん、すべての結婚の夢をぶち壊そうと思っているわけではないのですが、「結婚は幸せなこと」と思い込んでいる人たちは、「それは刷り込みではないか」と考える機会もないままに、あまりにも表面的なきらびやかな部分だけを見ているのかもしれない、と思うのです。先月の文章では、「結婚して一人前」とされている社会の問題について触れました。その価値観そのものを問わず、「結婚して一人前」になることで「勝ち組」になることを「いいこと」としてしまうことに僕はとても違和感を持つのです。

ではどうして「同性婚」を認めてもらいたいと思う人たちがいるのか。それは、法的な結婚、すなわち「婚姻」によって得られる権利がとても大きな理由になります。例えば、婚姻関係にあると自動的に財産が共有できるようになります。片方が亡くなれば、財産は残された伴侶のものになります。婚姻できない同性カップルは、(安くないお金を払って公正証書を作っていない限り)財産は亡くなった人の親族に渡ってしまいます。アパートに二人で住んでいても、名義になっているほうが亡くなったら、もう片方はアパートを追い出されるかもしれません。あるゲイカップルは片方が開腹手術を受ける際、医師から「パートナーのサインでもいいですよ」と言われた直後にこう付け加えられたそうです。「でも病巣が思いのほか悪かったら、法的な親族のサインが必要なので一度縫い合わせます」・・・!!(これは法律ではなく、後で何かあったときに親族からクレームを言われないための予防策らしいのですが。)

さらに言えば、婚姻すると一人分の税金が安くなります。(実は「離婚した時にそれを実感した」という人がとても多いのです。でもそれって、「婚姻していない人はその分多く税金を払わされている」ということにならないのかしら? 一人で生きていても、婚姻している人と同じように安心して生きていける社会にはならないのかしら?)とは言いつつ、経済的に困難なカップルにとっては大きな問題でもあるのです。

日本国籍を持つ人と婚姻関係にある外国人は、自動的にビザを取得できる。でも同性カップルだと何年日本で暮らしていても「配偶者ビザ」は取得できません。そのためパートナーと安心して暮らすために海外に移住する同性愛者もたくさん見てきました。

そういうことを考えると、「結婚はいいこと」という考えに対して、「待てよ、本当にそうなのか?」と疑問を持てたのは、ゲイで良かったことの一つだと感じています。同時に、「同性同士の婚姻が認められないことに不利益を被っている人たちがたくさんいる」ということに気づけたことも、ゲイで良かったことの一つです。

けれど、僕(とパートナー)とは、同性婚が法制化されてもおそらく結婚しないだろうな、と思っています。それは「ゲイで一番良かったこと」とつながってきます。次回はそのことに話を進めてみようかな。

[ライタープロフィール]

平良愛香(たいらあいか)

1968年沖縄生まれ。男性同性愛者であることをカミングアウトして牧師となる。
現在日本キリスト教団川和教会牧師。