スージー鈴木のロックンロール・サラリーマンのススメ 第1回

第1回 サラリーマンこそロックンローラーになるべき理由

スージー鈴木

このたび、「彩マガ」で新連載を始めます、スージー鈴木です。ラジオDJや音楽評論家として、色々と活動しておりまして、彩流社さんからは、これまで4冊ほど上梓させていただきました。最新刊は『平成Jポップと令和歌謡』という本です。こちらもぜひ。

さて、この新連載、テーマは、主にサラリーマン(会社員)の方に向けて「ロックンローラーになろう(でも会社員も続けながらね)」と勧める内容にしたいと思います。

あ、ここでいう「ロックンローラー」とは、「音楽としてのロックンロールをする人」という狭義のものではなく、いや、それもアリなのですが、もっと広く、文章を書いたり、絵を描いたり、映画を撮ったり、何かの物を作ったり、最近ではポッドキャストで話したり、などなど、「対外的に表現をする人」というイメージです。

もちろん、単なる趣味ではなく、そこからいくばくかの報酬を得られるとすると、より理想的なロックンローラーとなります。

実はこの私が、ついこの間まで、そんなサラリーマンだったのです。具体的には某広告代理店に勤めていて、昨年11月、55歳になるのを機に早期退職しました。なので、「『ロックンロール・サラリーマン』って何よ? 誰よ?」と聞かれたら、「それは私」と答えるでしょう。

「ロックンローラー=対外的に表現をする人」となると、一般には、会社なんかに所属せず、若い頃から一匹狼で、世間と戦い続け・勝ち続けて、名と財を成したというイメージになります。

逆に、多くのサラリーマンは、会社に属した段階で、会社員という「宮仕え」の立場に気が引け、また、会社によっては、ちょっとした内規にも拘束される結果、何か表現したくとも、尻込みしてしまう人が多い。とても多い。

しかし。いやいや、サラリーマンこそロックンローラーになってください、なるべきだと、私は思うのです。

まず、大きな理由の1つは「定収がある」ということです。人によって金額は違えど、「一匹狼」(フリーランス)に比べて、定期的な収入があることのメリットは、とてつもなく大きい。

なぜなら、安定的に収入があるということは、安定的に表現への「栄養」を摂取できるということなのですから。本を買って、音楽を聴いて、映画を観て、コンサートに行って──。

ちなみにこの写真は、会社員時代の私が買い集めたCDを並べた自室の棚です。阿久悠、大滝詠一、岡村靖幸か並ぶ「ア行」周辺(邦楽はアカサタナ順、洋楽はABC順に並べています)。CD棚を、ここでは「栄養棚」と言い換えてもいいですね。

もちろん「栄養」の摂取だけでなく、その「栄養」を活かした表現活動自体も、安定的な収入があるからこそ、いい意味での遊び気分で、自由に気楽にできるというメリットもあります。

逆に、「貧すれば鈍する」とでも言いましょうか、「一匹狼」の方で、表現だけでは生活が立ち行かなくなって、廃業する人、もしくは表現を続けるのだけれども、言いたいことを言えず、書きたいことも書けなくなったポイズンな人を、私は何人も見てきました。

サラリーマンになってなかったら、たぶんバーストしていた

さて、「ロックンロール・サラリーマン」の先達として思うのは、「20代で早々とブレイクしなくて良かった」ということです。これは、ネタではなく、心からそう思います。

私の20代と言えば、80年代後半から90年代前半。CD市場が右肩上がりに盛り上がる中、音楽雑誌の全盛期が到来。ということは、音楽評論家/音楽ライターも山のようにウヨウヨといました。

もし私が当時、そんな中の1人としてデビューしたなら、ちょっとはブレイクしたとしても、その後は、正直、ひとたまりもなかったのではないか。音楽的知識もない、本も音源も持っていないという「栄養」失調状態。それどころか、そもそも大した文章も書けない。

すると、どうなったでしょう。たぶん評論・批評というよりはコラム、雑文を強制されて、「!」や「(笑)」が山盛りの「おもしろ文体」をところ構わず書きまくり、最終的にはバーストしてしまったと思うのです。

もしくは、ある音楽家に乞われた「座付きライター」となり、数ヶ月の全国縦断コンサートツアーに「完全密着」し、ややいかめしい文章で、それでも内容は、その音楽家が何時に起きたとか、どこで何食ったかとかの身辺雑記を書いていた、いや、書かされていたことでしょう。

つまりこれ、真の意味での「表現」から、もうズレています。「ロックンローラー=対外的に“表現”をする人」だとすれば、これはもうロックンローラーではありません。

逆に、誤解を怖れずストレートに言えば、「サラリーマンこそがロックンローラーになれる」のです。いや、やっぱり誤解が怖いので、もうちょっと丁寧に言えば──「サラリーマンという、一見、回り道をしながら、ロックンローラーになるという方法は絶対にある」。

それ以外にも、ロックンローラーになるために、サラリーマンになる/であり続けるメリットはいくつもあります。この連載では、そのあたりを、一つひとつ解きほぐしていこうと思っています。よろしくお願いします。

あ、それ以前に、私がどんな「ロックンロール」を歌っているかについては、彩流社からの新刊『平成Jポップと令和歌謡』を、ぜひご一読くださいませ。

[ライタープロフィール]

スージー鈴木(すーじーすずき)

音楽評論家、小説家、ラジオDJ。1966年11月26日、大阪府東大阪市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。音楽評論家として、昭和歌謡から最新ヒット曲までを「プロ・リスナー」的に評論。著書・ウェブ等連載・テレビ・ラジオレギュラー出演etc多数。
著書…『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ 1978-1985』(新潮新書)、『カセットテープ少年時代』(KADOKAWA)、『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)、『1984年の歌謡曲』(イースト・プレス)、『【F】を3本の弦で弾く ギター超カンタン奏法』『1979年の歌謡曲』『80年代音楽解体新書』(いずれも彩流社)。近著に『ザ・カセットテープ・ミュージックの本』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)、『恋するラジオ』(ブックマン社)。
ウェブ連載…「東洋経済オンライン」「FRIDAYデジタル」「水道橋博士のメルマ旬報」など。