スージー鈴木のロックンロール・サラリーマンのススメ 第6回

第6回 ロックンロールサラリーマン最大の武器は「〆切力」

突然ですが、私は「〆切破り自慢」をしている文章が苦手です。っいうか嫌い、大嫌い。

「編集者や印刷所を待たせてる俺って、すごいでしょ?」という優越感による自慢だと思うのですが、そんなのは、全然すごくない。かっこよくない。

スケジュールと内容と対価。物書きのビジネスがこの三要素で出来ているとしたら、その重要な1ピースであるスケジュール、〆切をないがしろにしていいはずないでしょう。

という私の気分、自虐的に言えば「サラリーマン根性」だと思うのです。〆切や納期が絶対のサラリーマン社会。そりゃ、〆切や納期が遅れることもありましょうが、間違えても、それが「すごい」「かっこいい」なんて持ち上げられることはない。

広告代理店に伝わる名言の1つに「出来なかったプレゼンはない」というのがあります。砕いていえば「当日に間に合わなかったプレゼンはない」「代理店側からドタキャンするプレゼンなどない」――。

いや、これにも例外はあるでしょうが、少なくとも、30年間の広告代理店生活で、当日に間に合わなかったプレゼンなど、ほとんどありませんでした。

なぜか。理由があります。それは「数日遅らせて100点のプレゼンすることよりも、期日に間に合わせて80点のプレゼンをした方が、ビジネスとして評価される」からです。

その〆切日を軸にして、取引先のビジネス・スケジュールは動いています。だとしたら、未完成だとしても、〆切までに一度放り込んでおく。場合によっては、〆切後に、プレゼン内容を追加修正するチャンスもあったりする。

自慢じゃないですが、サラリーマンが長かった私は、ライター活動においても〆切を破ったことなど、ほとんどありません。なぜならば私、そもそも待つのが嫌いなんですね。だから、人を待たせるのも苦手なんです。変に気を遣っちゃって。

〆切を守る力=「〆切力」――これぞ、ロックンロール業界に欠けていて、サラリーマン業界が長けているもの。つまりはロックンロールを目指すサラリーマンにとっての最大最強の武器。

井上ひさし作詞のロックンロール『すきすきソング』(『ひみつのアッコちゃん』)収録CD

■「〆切力」を高めるためのサラリーマンの知恵とは?

ただ、広告代理店にも「〆切力」の低い輩(やから)はいました。企画書とか提案物に「作品主義」的な考え方を持って、中途半端な段階で見せるのを嫌がって〆切を遅らせる輩。

まるで井上ひさしのような作家先生の気分になっているのでしょう。作家先生な気分に浸りたいのでしょう。でも、それはビジネスという現場では、明らかに低級。

てか、出版業界も演劇業界もビジネスっちゃあビジネスなのですから、「〆切力」の低さという一点において私は、井上ひさしという人を減点します。

さて、「〆切力」を高めるために、〆切に向けて、未完成な状態でも周囲にうまく逐一チェックしてもらう方法について、サラリーマンは長けていると思います。

例えば、私自身の経験で有効だと思ったのは、パワポ(Microsoft PowerPoint)の企画書を作るとして、まずはパワポに書かれるテキスト要素だけを、テキストファイルで先に仕上げてしまう。

テキストだけ仕上げておけば、スタッフ全員に確認できます。その時点で修正する方が、パワポ化してから修正するよりもぜんぜん簡単。

さらに重要なのは、万が一〆切が早まったとしても(ままあることです)、テキストが出来ていれば、その段階でとりあえずプレゼンは出来る!

そう考えたら、〆切までに書けるか不安だったとしたら、原稿がまだ出来ていない段階で、そのベースとなる骨子とかプロット、全体の流れなどで編集者と相談して、ブレやズレを少しずつ小さくしていくという方法だってありますよね。

そんな感じの知恵を、ロックンロール業界で活かせばいい。サラリーマンが誇る「〆切力」という武器を使って、ロックンロール業界をのし上がっていきましょう。作家先生気分に浸っている使えないロックンローラーをぶっとばしましょう。えいっ。

 

[ライタープロフィール]

スージー鈴木(すーじーすずき)

音楽評論家、小説家、ラジオDJ。1966年11月26日、大阪府東大阪市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。音楽評論家として、昭和歌謡から最新ヒット曲までを「プロ・リスナー」的に評論。著書・ウェブ等連載・テレビ・ラジオレギュラー出演多数。
著書…『桑田佳祐論』(新潮新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『平成Jポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』『1979年の歌謡曲』(いずれも彩流社)、『恋するラジオ』『チェッカーズの音楽とその時代』(いずれもブックマン社)、『ザ・カセットテープ・ミュージックの本』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)、『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ 1978-1985』(新潮新書)、『カセットテープ少年時代』(KADOKAWA)、『1984年の歌謡曲』(イースト新書)など多数。