湘南 BENGOSHI 雪風録 第8回

  

山本有紀

 

◇11月○日

「証拠開示のデジタル化を実現する会」(※1)の署名が回ってくる。

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刑事事件で、検察によって起訴がなされると(この時、起訴された本人はその事件について「被疑者」から「被告人」という呼び名に変わります)、しばらくして弁護人をしている弁護士のところに検察から「証拠準備できました」と電話がかかってきます(証拠開示)。

証拠は、検察官が裁判で主張する事実の根拠なので、被告人の防御を行う立場の弁護人は証拠をよくよく検討しておく必要があります(例えば、犯行を目撃した人の供述調書に、矛盾した内容が書かれていないか─供述調書の証拠としての信用性は低くなります─とか、そもそも犯行を立証するための証拠が揃っているかとか)。

検察の言う、「証拠が準備されている」とは、検察庁で証拠が閲覧できるようになっているということなので、弁護人は、検察庁に足を運んで証拠を見にいかなくてはなりません(閲覧)。もっとも、枚数のある証拠を検討するには時間がかかるので、弁護人の多くは証拠をコピーして(謄写)、手元で検討できるようにしています。

証拠のコピー!

弁護人が検察庁に10円玉をたくさん持っていって一枚一枚コピー機でコピーすることもできますが、とにかく時間が膨大にかかります。なので司法協会等(コピーの業者さん。検察庁や裁判所の一角にあることが多い)に謄写をお願いし、事務所に郵送してもらうことが多いです。

しかし……まず業者さんに頼むコピーは、横浜地検内の業者さんだと白黒が1枚30円のカラーは1枚60円。横浜地裁小田原支部内の業者さんだと白黒が1枚45円のカラーは1枚80円(2020年調べ)。

少なくとも証拠を閲覧し検討していない状態で、弁護人が謄写を頼む場合は、全部の謄写を頼むことが多いと思いますが、当然ながら10枚20枚の量ではありません(ちなみに検察が証拠の枚数を事前に教えてくれたことはこれまでありませんでした)。

謄写を頼んで数日……私の机の上には石のように重い箱(着払い)が……! 箱をあけると一番上に、普段の生活ではおよそ目にしない額の請求書が……!

「証拠開示のデジタル化を実現する会」のトップページには「証拠のコピーに600万円払った方もいます」……。仮に私だったらそもそもお金がなくて払えないです……。

国選の刑事事件の場合、少なくとも200ページを超える部分についてはいったん弁護人が立替えの後、支払いを国に求めることができます(それでも200枚が全部カラーだったら1万円以上弁護士負担になってしまいます)。もっとも判決が出るまでは立替えの状態が続きます。証拠の多い、コピー代の高い、判決まで長くかかる事件であればあるほど、持ち出しのまま事件を続けることになります……。

というわけでこの状況を打開するべく、上記署名運動が始まったようなのです。

私個人としては、仮にPDFになったとしても、国選弁護人が証拠に関する費用を(一部)負担する制度は変わらないのだろうな……なぜなら刑事弁護の報酬ってとってもからいから……とは思いつつ、少なくとも白黒とカラーで額の違いはなくなるのではないか、紙とインク代が抑えられるわけだから少しは安くなるのではないか、ひいてはこの開示証拠の謄写に投入されているであろう税金も減るのではないかという期待を持っています。

署名は弁護士に限らず広く集めているそうなので、興味をもたれた方は是非会のホームページを見てみてください。

 

◇11月△日

それはあまりにも無茶をしたのではないかしらと感じるご相談。そうかと思えばそれはあまりにも無茶なのではないかしらと思う主張内容の書面が相手方から届く今日。

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弁護士が仕事で触れるお話は、その人が人生で一、二を争う大変な状況にあるときの、まさにその状況の話です。

それがその人だけの問題ではなくて、社会全体に問うべき問題と捉えられるなら、上記証拠開示のデジタル化の話のように、署名運動をして新しい変化を求める道が考えられます。同じ問題を抱えている人がたくさんいたら、その人たちで集まって訴訟をおこして是非を問うこともできます。

この仕事は変化を起こすことにすごく親和的な仕事であると思います。

しかし同時に、一般的な慣行はどうなっているか、多くの人がどう考えているか(その是非はおいて)ということへの視点を失っては(裁判所も最後は一般慣習はどうかというところを気にしています)紛争解決に結びつかないところ。

あんまりこの言葉は好きではないけれども、「常識」とは離れた展開に少なからず触れ続けながら、常識的に見てどうかという視点が欠かせないものと痛感します。

 

◇11月□日

贔屓の退団公演のチケット申込みがいよいよ始まる。阪急さん阪急さん、どうにか当ててください。

日々目にすることは必ずしもきれいなことばかりではないけれども、宝塚を見て人間としての美しさみたいなものを目指す心を忘れないようにしたい。

今年も(今年は特に)みなさまおつかれさまでした。よいお年をお迎えください。

 

※1 https://www.change-discovery.org

 

 

[ライタープロフィール]

山本有紀

1989年大阪府生まれ。京都大学卒業。
大学時代は学園祭スタッフとして立て看板を描く等していた。
神奈川県藤沢市で弁護士として働く。
宝塚歌劇が好き。

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