湘南 BENGOSHI 雪風録 第6回

  

山本有紀

 

◇9月○日

事務所の会議で、今後具体的に採用活動をするかどうか……という話が出る。

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事務所の末っ子である。日本の弁護士全体から見ても、72期の私は末っ子で、73期はまだ司法修習中だ。

72期、73期、という呼び方は、司法修習開始時期により決まる。司法修習とは、司法試験に合格後、法曹三者(弁護士、裁判官、検察官)になるにあたって受ける必要のある(例外あり)研修をいう。弁護士界隈では、期は多くの場合、年齢以上の重みをもっている。

弊所入所時、原則#$%&の間は、国選の刑事事件を除き、仕事は先輩弁護士と共同受任とするという契約をした。弊所弁護士は皆人格者なので(恒例の自分の事務所アゲ)、私は先輩弁護士に助けてもらったり褒めてもらったりしつつ、機嫌よく仕事に邁進している。

しかし、ここにきて採用活動の話題……すなわち私の後輩を加えることも考えるということか……勿論ずっとこのままというわけにはいかないけれども、でも、この末っ子ポジションがもう少し続いてもいいんじゃないかなと思っているんです……さっき! さっき! 働き始めたところなので……。と思っていると、弁護士会から来年の訟廷日誌(弁護士御用達? の手帳。全国弁護士協同組合発行)の配布申し込みのお知らせが来て、働きはじめて1年を迎えつつあることを知る。

 

◇9月△日

上司によるパワハラのご相談。

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労働事件の相談、パワハラに関わるものがとかく多いように思う。相談者さんの中には、精神面のご病気になってしまった方もいる。人の言動が、人に与える影響の凄まじさを思う。

厚生労働省は、精神障害の労災認定基準なるものを出している。ものすごくざっくりいうと、会社で働く人が、うつ病等の精神障害になったとき、発病前概ね6ヶ月の間に業務による強い心理的負荷があり、業務外でそういった負荷のかかる事情がなかったといえれば、その精神障害は労災であると認められ、それによる休業期間については休業補償給付金を受け取ることができる(ものすごくざっくりの説明ですので、詳しくは厚労省の労災に関するページか弊所まで)。

業務による強い心理的負荷の例として、厚労省は何十個かの「出来事」を定めている。労災認定にあたっては、労基署がこれら「出来事」の有無を判断することになる。

この「出来事」の中に、今年5月29日付で、新たに「上司等からのパワーハラスメント」が設けられた。これまでは、対人関係に関する「出来事」の一つとして、上司や同僚から「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、または暴行を受けた」が設けられていたところ、上司からのパワハラが別個の「出来事」として設定されたのである。一弁護士(しかも内心ではさっき仕事を始めたつもりでいる)の目からみても、こんなにパワハラの相談が多いのだから、労基署や厚労省の人は、上司からのパワハラ事案めちゃくちゃ数あるやん! ってなっていたのでしょうねえ……。

ところで、弁護士稼業、特に町弁は、自分の名前で仕事をすると前回書いた。それは一人で気ままに仕事をするという側面もあわせもっている。

パワハラの心理的負荷は、パワハラについて会社に相談したが、改善がみられなかった時には、より強度の強いものと評価され、労災が認められやすくなる。証拠を積み上げたいこちらは、ついついそういう事情がないか、それを証明する記録がないか期待してしまうけれども、会社に相談すること自体、会社の人間関係の中ではかなりハードルが高い。

弁護士に相談することも、ハードルの高いことの一つであると思う。勇気をもってご相談にきていただいたことが嬉しいと同時に、健康は何にも替えられませんので、できるだけ早めにご相談にきてくださるといいなと思います。

それにしても町弁歴が長く、一人でサクサク進められる仕事に、私をあえて混ぜてくれる先輩弁護士には感謝しかない。

来るべき後輩が来たときには、あんなパワハラやこんなパワハラを反面教師とし、良き先輩になりたい……もう少し末っ子が続いても嬉しいのですけども。

 

◇9月□日

今日もやはり宝塚歌劇・雪組は望海風斗さん主演のコンサート「NOW ZOOM ME!!」を観に行く。

望海さんを2階席からオペラグラスで、その名のとおりZOOM MEするのに必死になる。望海さんは東京でもキラキラしておりました。とはいえ他の組子(組に所属するタカラジェンヌさんのこと。一組あたり80人くらいいる)、オーケストラのみなさん、照明のみなさん、劇場スタッフのみなさん、あとは劇場を建ててくれた皆さんやチケットを印刷してくれている皆さん(印刷は機械かな? じゃあその機械を動かしてる皆さん)等々いろんな人がいて初めて宝塚歌劇のパワーが出るように思う。

弁護士は一人で気ままに仕事をすると先ほど申し上げました。しかし何より弁護士は当事者である依頼者と併走する仕事だ。そして事務局さんにお世話になり、書記官さんに助けてもらって仕事を進めている。私は今後もことあるごとに先輩弁護士を頼る(宣言)。

どんな仕事ですら人間関係の中においてのものであるならば、互いに敬意をもってやれるといいですね。依頼者さんにはご自分に不利なこともあらかじめ弁護士には話してもらって信頼の上で仕事をしたい。労働の相談でパワハラに関するものが増えているのは、立場の上下にあぐらをかく、敬意を欠いた振舞いを是とする人が増えているからなのか、それとも、そういう振舞いはおかしいことだという意識が多くの人に共有されるようになってきたからなのだろうか。セクハラはパワハラよりも先に生まれた言葉と記憶しているが、職場での露骨なセクハラのご相談って、パワハラのご相談に比べればおよそ少ない。人の意識次第で働く環境も変化するものと信じる。

 

 

[ライタープロフィール]

山本有紀

1989年大阪府生まれ。京都大学卒業。
大学時代は学園祭スタッフとして立て看板を描く等していた。
神奈川県藤沢市で弁護士として働く。
宝塚歌劇が好き。

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