湘南 BENGOSHI 雪風録 第2回

  

山本有紀

 

◇2020年5月○日

去年の今頃、「司法修習生」をしていた。

司法試験を受けて合格し(例年9月発表)、司法修習採用選考に申し込むと、最高裁判所に司法修習生として採用される(病気で修習できないなどの事情がない限り、採用されるとのこと)。12月に始まる1年間の司法修習を修め、その後考試(二回試験と呼ばれる。これを読んでいる司法修習生がもしいたら、君、とにかく集合修習で出た問題をちゃんと復習しよう、さすれば受かる)に合格すると判事補(裁判官)、検事(検察官)、弁護士となる資格を取得できる。

現実には、裁判官、検察官になる(裁判官になることを任官、検察官になることを任検と呼ぶ)ためには、司法修習が始まった早い段階で、任官あるいは任検したい旨教官である裁判官、検察官に売り込んでいったり、見初められたり(成績が優秀だとか、司法試験一発合格だとか、プラス熱意だとか)する必要がある。そして、司法修習中も優秀な成績をキープし、アンオフィシャルな内定をもらわなくてはならないとのこと(私のような平凡な修習生にはその全貌は可視化されなかった……)。

なお、司法修習生は、国家公務員ではないものの、これに準じた身分にあるものとして取り扱われ、修習期間中、修習に専念すべき義務を負い、兼職・兼業が原則禁止される。ちなみに基本給付金が月額13万5千円、住宅給付金が月額3万5千円である。

国家公務員に準じた身分と言われ(ちなみに裁判官と検察官は国家公務員。弁護士は民間)、何となく、何となく、いかようにも解釈できそうな「司法修習生」の立ち位置からすれば、外部に自分の考えを書いていることが知られたら悪いことが起きるような気がして(別に怒られなきゃいけないようなことは書いてないつもりだが! ドン!)、日々是好日はペンネームを使っておりました。

個を出して目立っていくことは予定されていない(“岡口基一裁判官” で検索)、公務を行なう裁判官、検察官と、自分の名前を売ってなんぼの士業であるところの、国に対してだっておかしいことはおかしいと率先して争っていくことが期待される側の、弁護士になる人とに司法修習生は分かれていく。

ふんわりした、でも厳しい(ような気がしてどこまで自由に振る舞っていいものかおそろしかった)システムのもと、異なる立場の3者の卵が同じカリキュラムで育成されておりました。

当時司法修習のことをもっと具体的に書けていたら、今頃リーガルエッグもびっくりの大人気連載になっていたかもしれないが、まだ弁護士ではなくて、司法修習生という身分だったから怖くてできなかった。後の祭りというべきか取らぬ狸の皮算用というべきか。

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◇2020年5月△日

刑事の公判。

弁護人の席のソファがめちゃくちゃどっしりしている。

弁護人席から見る検察官は思いのほか遠い(ソーシャルディスタンス)! 裁判官も思いのほか遠い(ソーシャルディスタンスプラス高低差)! 被告人と被告人の左右にいる警察官の人はめちゃくちゃ近い(お仕事ご苦労様です)! 書記官さんと傍聴の人は感覚としては同じくらいの距離。

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人間には何にでも初めての日というものがありますが、今日は私の刑事弁護人公判デビューの日でした。

事件のことはここでは書かないが、横浜地裁では基本的に裁判官と検察官がセット(事件の大きさにもよるが、事件ごとに顔ぶれがかわらない)になっている。その中で弁護人だけが事件毎に入れ替わる形になる。裁判官も検察も数年おきに転勤があるそうなので、ずっと一緒というわけではないものの、数件同じ事件を担当すれば、お互いの考え方の癖などはある程度見えてくるだろう。いくら個を出さないっていったって人間だもの……。弁護人はいつでもアウェー戦だ。

その中で弁護人は、被告人の側にたって、公判を進める。司法修習の時とは違って、め、と言われることはもうないが、責任は重い。そしてそれと裏表の極めて大きな自由がある。(もちろん被告人の利益に沿ってではあるものの)自由に発言できる、自分の名前で仕事ができることはとにかく素晴らしいことと感じた。

 

◇2020年5月□日

事務所で歴史の話になる。もっと知識が欲しい。

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事務所で小説の話や、歴史の話や、音楽の話や、花の話がでることがある。宝塚で見た分野はバッチリだがその他では知識不足を露呈してしまう(桔梗も知らんなんて……)。歴史でもフランス革命〜ナポレオンあたりはよくわかるのですが。ルキーニは小林一三翁と同い年らしいですわよ。

人間は、知らないことを考えることはきっとできないから、私はもっともっと知識が欲しい。本を読もう。映画を見よう。

しかし今の仕事について1年目なのでなかなかそうもいかず(こじつけ)、働いて、疲れて、帰って、ただ寝てしまう日がとても多い。すやすや……。

 

 

[ライタープロフィール]

山本有紀

1989年大阪府生まれ。京都大学卒業。

大学時代は学園祭スタッフとして立て看板を描く等していた。

神奈川県藤沢市で弁護士として働く。

宝塚歌劇が好き。

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