湘南 BENGOSHI 雪風録 第15回

山本有紀

 

◇7月○日

 シンクを掃除して、掃除機をかけて、ゴミを出す。お風呂も洗う。
 溜まった新聞をひもでまとめて、玄関の砂もちりとりに集める。

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 毎日こまめにすればいいのはわかっているものの正直面倒でやる気がでない。あらゆる家事における自分の担当もはっきりしないし、感謝されることもない。報酬もない……。

 事務所に行って仕事をすると、大変なことがあるのは家事と同じでも、それでご飯を食べられるようになるし、時々は人に感謝してもらえる。すごく嬉しい。

 リターンがあるものほど頑張れる。リターンがない(と感じてしまう)ものについては……。

 

◇7月△日

 法テラスで受けた事件の終了通知が届く。
 依頼者さんへの電話を忘れないよう手帳にメモをする。

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 あなたは、離婚に向け別居に踏み切った妻である。小学生の子どもがひとりいる。

 別居に至る前のある晩、あなたは夫に離婚したいと伝えた。●▲■の問題で、もうこのまま結婚生活を続けていくことはできないと感じているためである。しかし、夫はそれに応じる意向は全くないようで、あなたが用意した離婚届に記入しなかった。

 ●▲■の問題は改善しないうえ夫の気持ちはその後も変わらず、夫婦間の話合いでは埒があかなかった(協議離婚はできなかった)。あなたの心はとても苦しい。

 そこで次に考えられる離婚の手段は、調停離婚か、訴訟離婚である。

 日本では、調停前置主義といって、最初から訴訟で離婚を求めることはできない。まずは調停離婚、すなわち家庭裁判所に夫婦関係調整調停を申し立て、その枠組みの中で離婚の道を探ることになる。

 調停の段階から、法テラスを利用して弁護士を代理人としてつけることができる(なお。調停において代理人をつけることは必須ではない)。

 調停は基本的に当事者の出頭が求められるので、代理人に全てを任せたままにすることはできない。もっとも自己の離婚に向けた希望条件等を口頭で、また書面で調停員や相手に伝えてもらえるし、調停の場にも慣れているから、代理人が心強いのは確かだ。

 では、どの弁護士に依頼するときも、法テラスの利用ができるだろうか。

 答えはバツである。

 弁護士の中には、法テラスと契約している、法テラスを使える弁護士と、契約していない弁護士がいる。

 前者を探し出すには、お住まいの地域の法テラスに電話をして(たとえば藤沢なら法テラス神奈川)弁護士を紹介してもらうのが一手である(この時どの弁護士に当たるかは法テラスにお任せだ)。数多ある法律事務所のホームページから気に入った弁護士を見つけ、その弁護士が法テラスと契約しているかを確認するという方法もある。

 同じ事務所の中に、法テラスと契約している弁護士としていない弁護士がいることは珍しくない。法テラスと契約していることを大きく宣伝している弁護士もいれば、契約していてもあまりそのことを積極的に示していない弁護士もいる(この辺りの事情は次回をお楽しみに)。なので気に入った弁護士が見つかれば、事務所に電話をして確認するのが確実だ。

 次に、経済的な条件(法テラスのいうところの資力要件)を満たす必要がある。

 あなたは、別居の結果子ども一人との二人世帯となった。

 二人世帯の資力要件は、藤沢市では月収27万6100円以下(年収331万3200円以下)であること。家賃の支払をしている場合月収34万4100円以下(年収412万9200円以下)であることだ。

 なお、夫婦関係調整調停を弁護士に依頼する場合、相手方となる夫の年収を計算に入れる必要はない。

 また、上記の収入に関する条件の他に、資産に関する条件として貯金や不動産等の資産が250万円以下であることも求められる。

 資力要件がクリアできると(実際には資力要件について弁護士もチェックしますし、その後法テラスが審査をします。あらかじめ源泉徴収票等を用意し弁護士への相談時に持っていくと話がスムーズです)、次は法テラス利用のための審査申込みだ。

 弁護士が審査書類を用意するので(枚数は多い)、その内容をみて適宜記入をする。

 弁護士費用は、毎月決まった額を月々法テラスに返済(申込みから数ヶ月経ってから返済が始まることが多い)することになるが、この額も、審査申込みの際、月額1万円、7千円、5千円から選ぶことができる。

 ちなみに、経済的な条件の他、勝訴の見込みがないとは言えないこと、民事法律扶助の趣旨に適することという二つの条件を満たさなくてはならない。もっともこの辺りは、基本的に弁護士側で検討し、法テラスの審査書類に記入することになる。

 このようにして、あなたは、夫婦関係調整調停及び別居期間中の婚姻費用の支払を求める調停を、法テラスを利用して弁護士に依頼することにした。

 審査が通らないと弁護士も事件に着手しにくい。弁護士から法テラスに審査のための書類を送り、審査の結果が出るには20日ほどを要する。

 審査の結果が通った段階で、弁護士と改めて打合せをすることになった。

(次回に続く)

 

 

[ライタープロフィール]

山本有紀

1989年大阪府生まれ。京都大学卒業。
大学時代は学園祭スタッフとして立て看板を描く等していた。
神奈川県藤沢市で弁護士として働く。
宝塚歌劇が好き。