耳にコバン 〜邦ロック編〜 第8回

  
耳にコバン 〜邦ロック編〜 第8回

第8回「カッコつく人、つかない人」

コバン・ミヤガワ

 

 みなさん、つけてますか? カッコー。大事なところでカッコつかないのがボクなのです。


 大学2年の夏休み、故郷宮崎に帰省した。羽田から飛行機に乗り、宮崎に向かう。何せ新幹線が通っていないので、帰省の手段はもっぱら飛行機に頼る他ない。


 飛行機はやっぱり良い。ボクは無類の飛行機好きである。小さい頃父に連れられ、飛行機の離着陸を見るためだけに空港に通った。飛行機を見ながら、よくメロンソーダを飲んだものだ。

 今でも空港という場所はなんだか浮き足立つ。旅の始まりを感じ、ワクワクするのだ。いつも飛行機の出発時間よりも2時間は早く飛行場に行く。時間の許す限り飛行機を見たり、意味もなく空港をウロウロしたりするのが好きなのだ。

 その日も、2時間くらい早く空港に到着し、飛行機をずーっと見物した。1人で飛行機に乗るというのは、ちょっぴり大人な気分がするものだ。その日のコバン少年は、なんだかすごくジェントルマンな気分だった。


 搭乗時間になり、飛行機に乗り込む。美しいCAさん。素敵な営業スマイルである。離陸してしばらくすると、飲み物が配られ始めた。CAさんが段々近づいてくる。いつテーブルを出そうか。前もって出しておくと「飲み物すごく楽しみにしてるヤツ」みたいに思われる。ここは、飲み物を聞かれてからテーブルを広げよう。そうすれば「おや、気づけば飲み物が来ましたか。頂くとしましょう」という雰囲気を醸せる。なぜならジェントルマンだもの。

 とうとう順番が回ってきた。CAさんに「お飲み物は何に致しますか?」と聞かれる。ジェントルマンのコバン少年はもちろん「コーヒーをください」。そう答える。本当はリンゴジュースが飲みたい。しかし、ジェントルマンなのでコーヒー一択である。

「お砂糖とミルクはご利用ですか?」とCAさん。

「ブラックで」とボク。

 本当はお砂糖が欲しかった。しかし気分は一丁前のジェントルマンなので、ブラックの苦さを堪能するのだった。


 音楽を聴いたり、落書きをしていると、あっという間に到着である。美人CAさんともお別れ。最後はやはり爽やかな笑顔で「ありがとうございました」と言おう。これぞジェントルマン。

 席を立ち、荷物を持ち、出口に向かう。出口の前では、CAさんがにこやかに11人見送りをしてくれている。さすがのおもてなし精神である。ボクと目が合う。CAさんは「ご搭乗ありがとうございました」とニコッと微笑みながら言う。ジェントル・コバンこと、コバン少年も爽やかにお礼を言った。


「ごちそうさまでした」


 CAさん苦笑である。

 しまったぁーーー! そりゃそうだ。ただコーヒーのお礼をして去っていったガキンチョだもの。いい所でカッコがつかないコバン少年であった。

 ちなみに路線バスの運転手にも「ごちそうさまでした」と言ったことがある。カッコつけようとすると、空回りするもんだ。


「カッコつけてカッコいい」というのは存外難しい。今回紹介するのはそんな「カッコつけてカッコいい」伝説的バンドだ。おそらく日本で一番だろうとボクは信じている。


 BLANKEY JET CITY(ブランキー・ジェット・シティ)だ。


 1987年に結成された3人組のバンドである。彼らが一躍有名になったのは、バンドブームに乗じて始まった「三宅裕司のいかすバンド天国」(通称、イカ天)というテレビ番組だった。アマチュアバンドがしのぎを削り、メジャーデビューを目指す番組だ。この番組で有名になったバンドはいくつもある。ブランキーはもちろん、たま、BEGIN、人間椅子、ジッタリン・ジンなど、この番組から多くのバンドが羽ばたいていった。ブランキーもその1つだった。


 3人の個性を全力でぶつけ合うサウンドや、フロントマンの浅井健一(通称、ベンジー)の歌詞は唯一無二。その後の日本の音楽シーンに大きな影響を与えた。

 椎名林檎も大きく影響を受けたと公言しており、度々「ベンジー」を歌詞に登場させるほどである。彼女は「ベンジーは歩く芸術」だと評している。それでは一体どんな曲たちなのか。どこがカッコつけているのか。

 まずはアルバムを1枚紹介したい。1997年発表の『LOVE FLASH FEVER』という1枚。



 このアルバムに収録されている「ガソリンの揺れ方」の歌詞を見ていきたい。


ガソリンの香りがしてる
その中に落ちていた人形が
マッチ売りの少女に見える
淋しさだとか 優しさだとか 温もりだとか言うけれど
そんな言葉に興味はないぜ ただ鉄の塊にまたがって
揺らしてるだけ 自分の命 揺らしてるだけ
あの細く美しいワイヤーは
始めから無かったよ
きっと神様のイタズラ
切なさだとかはかなさだとか運命だとか言うけれど
そんな言葉に興味はないぜただ鉄の塊にまたがって
揺らしてるだけ 自分の命 揺らしてるだけ
淋しさだとか 優しさだとか 温もりだとか言うけれど
切なさだとか はかなさだとか 運命だとか言うけれど
そんな言葉に興味はないぜただ鉄の塊に
またがって揺らしてるだけ 自分の命 揺らしてるだけ

 うん、カッコいい。美しいとさえ言える。イントロで静かめな曲かな? と思わせつつ一気に全開! ずるい! ベンジーの歌声には、少年のような純粋さと同時に、消え入ってしまいそうな危うさがある。歌詞にはストーリーがあり、どこか儚くて繊細。でもしっかりロックしている。

 ただ何が言いたいのか、いまいちピンとこない。歌詞の意味を考えることすら無粋なのではないかとさえ思えてくる。ベンジーの綴る言葉は、「歌詞」というよりも「詩」なのだと思う。詩を絶妙なバランスで、ロックにのせて歌っているのだ。仮にボクなんかが、ブランキーの歌詞を作って歌ったとしても、ただのカッコつけたクサくてサムい男になるだけだ。

 しかしベンジーが歌うと、それは芸術になりうる。まさに「カッコつけてカッコいい」それがブランキーなのだ。

 もう1枚『ロメオの心臓』というアルバムを紹介させて欲しい。



 ボクはこのアルバムでブランキーを知った。あるテレビ番組のオープニングで、このアルバムの「ロメオ」という曲が使われていた。それがブランキーとの出会い。気がつけば虜になっていた。

 このアルバムで一番有名なのは「赤いタンバリン」だろう。以下、歌詞の一部である。


あの娘のことが 好きなのは
赤いタンバリンを上手に撃つから
流れ星一個盗んで
目の前に差し出した時の顔が見たい
Oh 愛という言葉に火をつけて 燃えあがらす
いくらか未来が好きになる
赤いタンバリン 赤いタンバリン
欠落した俺の感性に響くぜ
そんなに美人なわけじゃないが
腰と肘とハートでかろやかに撃ちふるう
Oh 愛という言葉に火をつけて燃えあがらす
いくらか未来が好きになる
Oh I want you, baby 人は愛しあうために
生きてるっていう噂 本当かもしれないぜ

「あの娘」とはベンジーの娘さんのことだとか。抱き上げた時の心臓の鼓動が、タンバリンみたいだったそう。

 いやもう、感服である。「心臓の鼓動」を「赤いタンバリン」だと表現できる美しいセンスに涙が出そうである。それを踏まえて聴いてみると、この曲から見えてくるのは、純粋なまでの愛だ。優しい親の愛、こんなに美しいものはない。


 はたから見れば、クサいくらいにカッコつけている。しかし悔しいほどにカッコいい。

 それが日本が誇るバンド、BLANKEY JET CITYなのだ。

 

 

[ライタープロフィール]

コバン・ミヤガワ
1995年宮崎県生まれ。大学卒業後、イラストレーターとして活動中。趣味は音楽、映画、写真。
Twitter :@koban_miyagawa

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