耳にコバン 〜邦ロック編〜 第15回

  
耳にコバン 〜邦ロック編〜 第15回

第15回「眼鏡少年」

 コバン・ミヤガワ

メガネが壊れた。

布団の上、不覚にも腰の横に置いていたものだから、寝返りを打った時、ボクのわんぱくボディに耐えられず、グシャリ。フレームが修復不可能なほどに曲がってしまった。

 

今までありがとう、ボクの丸メガネ。

ロン毛の頃に買ったので、会う人会う人に「ジョン・レノンみたいだね」と言われ続けたあの丸メガネ。

ロン毛で丸メガネをかけている人は、ジョン・レノンに似ている。「他にいるだろっ!」と思って考えてみても、案外思い浮かばない。それほどジョンは、アイコニックで的を射ている比喩なのだ。

ロン毛+丸メガネ=ジョン・レノン。この方程式は、今後更新されることはないのだろう。

 

他にも、

・ロン毛+サングラス=みうらじゅん
・ロン毛+グレーのスーツ+赤いネクタイ=武田鉄矢

などの方程式がロン毛界隈には存在している。

これらをここに「ロンゲーの公式」として書き残しておくとする。/p>

 

さて、仕方がないので新しい相棒を探しに早速、メガネ屋さんへ。

某有名メガネチェーン。なりゆきとはいえ、メガネを新調するのはワクワクするものだ。

今回は気分も新たに、丸くないやつにしようかしら。

ずらっと並んだメガネ。いくつかかけてみる。

「この感じはいい」

「これは似合わない」

「これはちょっと老けて見える」

「あれ、鏡に新渡戸稲造が映っている……」

そんなことをアレコレ考えているうちに、最終選考に4つくらい残った。

 

「さてどれを相棒にしようか」と最終審査に臨もうとしていると、女性の店員さんに声をかけられた。

「お悩みですか?」

「あ、そうなんですよー。これか、これかー……」

「一度かけていただいてもいいですか?」と言われ、店員さんが最終審査に参加。

1つ目をかけ、店員さんに見せる。「うんうん」店員さんが頷く。

 

2番目にベッコウ色の四角いメガネをかけて、店員さんに見せた。/p>

「それですっ!!!」店員さんが声を張り上げた。わりと大きめに。

「え、これですか?」少しびっくりして尋ねた。

「いや、それ以外あり得ないくらい似合ってます!」

「そ、そこまでですか? 後の2つは?」

「かける必要ないでしょう。これ以外あり得ませんっ!」

「そこまで言うなら……」

飛び入り審査員の圧倒的ジャッジにより、優勝が決まった。

まぁ、全部気に入っていたから、どれでも文句はなかったのだが。

さよなら丸メガネ。

よろしく四角メガネ。

 

さて、今月はメガネのボクが出会った、メガネの男のお話を。

メガネをかけ始めたのは中2(多分)。それからずっとメガネ人生なワケだが、高校生の頃にあるバンドに出会った。

YouTubeにあがっていたPVを見たと思う。

タイトルは「透明少女」

再生してみると、疾走感のあるイントロ。「鉄々しい」ギター。「ワン、ツー、スリー、フォー!」のカウントと共に一気に弾けるドラムとベース!

何だこの曲は!

ラクガキのような絵で描かれたPV。

時折、メガネの男が叫んで歌い、塗装の剥がれたギターをかき鳴らす女性が映る。

最初に心奪われたのは、ギターの音だった。正直、歌詞は何を言っているのかよく分からなかった。

「カーキーセツトーラートゥゲテー!」

何を言っとんのか。

後に歌詞を見て「赤いキセツ到来告げて」と歌っていると分かるのだが、何はともあれ、曲が超カッコよかったのだ。

急いでCDを借り、何度も何度も聴きまくった。

あのイントロは、何度聞いても胸が高鳴る。

今でもイントロを聴けば、初めて聴いたあの時の衝撃が目を覚ます。

バンドの名前はNUMBER GIRL (ナンバーガール)

バンド好きなら、知らない人はいないであろう、伝説的4人組オルタナロックバンドだ。

メガネのおじさんの名前は向井秀徳(むかいしゅうとく)というらしい。

銀縁の楕円のメガネをかけている気難しそうな男。

高校の先生みたいだった。数学か物理か、理系の先生の雰囲気。

とても、あんな曲を歌いそうな人には見えなかった。

 

聴いたことない方は、入り口としてまず「透明少女」を聴いてみてほしい。PVの中で写し出される「ギターによる焦燥音楽 それ、すなわち、Rock」という言葉。これを体感していただきたい。

ナンバーガール(通称、ナンバガ)のギターは、一言でいえば「ジャキジャキ」である。

金属的で鋭く、ジャキジャキ音で奏でる疾走感のあるロック。

そしてギターメロディー。

ボク的に、このメロディーがすごく「日本らしさ」を感じる1つのポイントだ。

どこか陰りがある響きなのだ。

疾走感の中にどこか不安定な緊張感がある。いい意味の気持ち悪さ。

それを表現しているのは、彼ら独特の不協和音的コード使いなのだ。

この心地よい不穏な空気が、すごく日本の風景にマッチしている気がする。

一般的に疾走感というと、爽やかな雰囲気がするが、一口に「爽やかだ」とは言えない空気がナンバガの曲にはある。

海辺のジョギングというよりは、人混みの中の全力疾走。

走り出したくてウズウズしている鬱屈とした感情まで表現しているかのよう。

 

ウズウズ(走りたい)……

ウズウズ(行っちゃうか?)……

行っちゃええぇぇぇー!!! 

 

そして聴いた後にはそんな鬱屈がどこかへ吹き飛んでいる。

「透明少女」はその最たる1曲である。

もう1つの魅力は何と言っても歌詞。

向井独特の世界観や言い回し。

いろんな曲で使われる「冷凍都市」や「繰り返される諸行無常」など独特な表現。

 

頻繁に登場する「少女」というモチーフ。

向井ワールド全開である。

今回は「OMOIDE IN MY HEAD」という曲の歌詞を見ていきたい。

この曲にも少女が登場する。

 

ねむらず朝が来て
ふらつきながら帰る
誰もいない電車の中を
朝日が白昼夢色に染める

ああ制服の少女よ
気が狂いそうな青空と
朝日のせいで君は眩しい

俺は薄く目を開けて
閉じてそしてまた開く

現実と残像を繰り返し
気がつくとそこに
ポケットに手を突っ込んで
センチメンタル通りを
練り歩く
17才の俺がいた

(中略)

朝日は今だ白く眩しくて
俺は俺を取り戻すのをじっと待っている
だんだんクリアになっていく
頭の中の思い出が遠ざかる

さあ、もう目を開けて
感傷の渦巻きに沈んでいく俺を

マボロシに取りつかれた俺を
つき飛ばせ
そして、どっかに捨てちまえ

 

明け方の電車、制服の少女の邂逅。

フラッシュバックする青春の日々。

そして「そんなフラッシュバックを吹き飛ばし、前を向け!」というメッセージ。

初めて聴いた高校生の頃は、何を歌っているのかよく分からなかった。

この歌詞が本当に心に刺さったのは、大学生になってからだ。

大学生の頃、下北沢で朝まで呑むことが度々あった。

5時か6時か、ふらふらになりながら電車に乗って帰る。

車窓から朝日が入ってきて、痛いくらいに眩しい。

眠たくても、眠れない。ただ目を開け、流れる街をぼーっと見る。

席には、これから仕事に向かうのであろう人がポツポツ座っている。

スーツの人を尻目に、ボクはこれから家に帰って、そのまま布団へダイブする。

まるで世界と逆行しているような感覚。

ボクと日常が乖離して、異質な存在になっているような、劣等感にも似た感傷。

向井の描いた世界観に入り込んだような気がした。

大学時代のあの経験で、この曲の解像度は大きく変わった。

 

人間は懐古する生き物だ。

今は大学生の頃を懐かしみ、大学生の頃は高校生の頃を懐かしんだ。

しかしメガネのおじさんは言っている。

「前を向け」と。

「ああしとけば良かった」とか「あんなことやらなきゃ良かった」なんて感情は捨てちまえ!

聴いた後の爽快感は、流石「向井ワールド」である。

これがモラトリアムに生きる人々に鋭くグサリと刺さるのだ。

ナンバーガールはサウンド、歌詞どちらをとっても後の邦ロックを大きく変えたカリスマである。

彼らは、ASIAN KUNG-FU GENERATION、椎名林檎、星野源など数多くのアーティストに影響を与えた。

ナンバーガールが聴きたくなったそこのあなた!

ぜひライブアルバムを聴いて欲しい。

『サッポロOMOIDE IN MY HEAD状態』というライブアルバムがある。

このアルバムは、2002年11月のラストライブの音源を収録したアルバムだ。

いまだに人々の口の端に上る名盤である。

 

ナンバーガールはライブの音源が痺れる。

魂を感じるパフォーマンス、向井の他の追随を許さないMC、どれをとっても最高である。

「そんな彼女が透明少女なワケ」から始まる透明少女。

 

「福岡市博多区からやって参りました、ナンバーガールです。ドラムス、アヒト・イナザワ」から入るOMOIDE IN MY HEAD。

ちょいちょい噛んじゃうところも含めて、たまらないアルバムだ。

ナンバガはラストライブと書いたように、1995年〜2002年の活動期間であったが、何と2019年位再結成!!!

彼らの活動をリアルタイムで追えるなんて……!

夢みたいだ。

それではこの辺で。

乾杯!

 

[ライタープロフィール]

コバン・ミヤガワ
1995年宮崎県生まれ。大学卒業後、イラストレーターとして活動中。趣味は音楽、映画、写真。
Twitter :@koban_miyagawa

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