耳にコバン 〜邦ロック編〜 第1回

  
耳にコバン 〜邦ロック編〜 第1回

第1回 夏を感じたんです。

 

コバン・ミヤガワ

 

ここ何ヶ月か、散歩を日課としている。

ただ音楽を聴きながら、あれこれ考えながら歩くのにハマっている。

時には20分、時には1時間以上歩き続けてしまうこともある。

 

8月も終わりに近づいたある日、いつものように散歩に出た。

 

気がつけば7月が過ぎ、気がつけば8月も終わろうとしているじゃないか。

気がつけばレジ袋にお金を取られるようになっていたし、気がつけば帰省もできずにお盆も過ぎてしまった。

 

思えば「夏」を感じることなんてしていない。こんなご時世だから仕方ないケド。

来月からの「耳にコバン」、何を書こうか。

そんなことを考えながら歩いていた。

 

そんなことより暑い暑い。たまらなく暑い。

どうして散歩なんてしようと思ったのか数分前の自分を問い質したい。暑いのに散歩に出るたびにそう思う。

ギラギラの太陽が照りつけ、遠くには入道雲がモコモコと見える。

 

なんとなく歩いていると、神社を通りかかった。

いかにも歴史を感じる、地元の小さな神社だった。

その神社は前々から何度か通りかかったことがあったが、そこまで気に留めてはいなかった。

 

ふとお社を見てみると、少年4人組が目に入った。

小学3〜4年生くらいであろうか、その4人組はお社の軒下でカードゲームをして遊んでいた。

その光景を見た瞬間、ボクはなんだか「夏」を見た気がした。

神社の日陰で元気に遊ぶ少年たち。

暑さなんか物ともせず、楽しそうに遊んでいる姿を見て「夏だなぁ」と心の底から感じたのだ。

 

それも世界中の他にはどこにもない「日本の夏」だった。

 

次の瞬間、ある曲が聴きたいという衝動に駆られた。

 

「あ、これを次に紹介しなければ!」

 

ということで今回から数回にわたって「日本らしさ」という視点でロックンロールを見ていこうと思う。

 

「日本のロック」というとかなり範囲が広い。

そこで、ボクなりに考えた「日本らしいロック」を紹介できたらと思う。

世界中のどこにもない日本だからこそ生まれた素晴らしいロックの数々を聴いていきたい。

 

さて、先ほどの4人組を見た瞬間聴きたくなったのは、そんな「日本のロック」いや「日本語のロック」の草分け的なバンドである。

 

はっぴいえんど

 

このバンドの名前を聞いたことがある人も多いはずである。

語るのも畏れ多いくらいである。

 

軽々しく扱えないし、散々研究や再評価されまくっているバンドなので、もう多くは語らないが「日本らしいロック」をテーマにする上で避けられないバンドであることは間違いない。

 

はっぴいえんどを知らない人でも、このバンド、あるいはメンバー個々人の日本の音楽界における大きすぎる影響に、かならず一度は触れているはずである。

それほどに偉大な人たちのバンドなのである。

日本らしいロックの始まりは、68年のフォーク・クルセイダース「帰って来た酔っぱらい」やジャックスの『ジャックスの世界』と言われ、68年が「日本ロック元年」とまで言われている。

 

60年代半ばまでにはなかった、日本らしいオリジナリティが花開いた年である。

 

その翌年の69年、細野晴臣、大滝詠一、松本隆、鈴木茂の4人がはっぴいえんどの前身となるヴァレンタイン・ブルーを結成する。

そして70年にバンド名をはっぴいえんどに改名する。

72年に解散してしまい、活動期間はわずか3年ほどだが、のちの日本の音楽に多大な影響を与えている。

 

今回紹介したいのは、はっぴいえんどのアルバムで特に人気の高い、71年発表の『風街ろまん』というアルバムだ。

 

 

あまりにも有名すぎるジャケット……

お洒落なのかダサいのか「そんなことどうでもいいじゃないか」と見つめられている気がする。

とにかくいいジャケット。

神社で少年たちを見た瞬間、無性に聴きたくなったのは、このアルバムに入っている「夏なんです」という曲である。

 

早速聴いてみよう。

 

なんだこのしっとり加減。

作曲は細野晴臣。

モビー・グレープ(Moby Grape)やバッファロー・スプリングフィールド(Buffalo Springfield)に影響を受けているのがわかる。

元々、はっぴいえんどはバッファロー・スプリングフィールドのコピーをやろうとしていたのだとか。

 

歌詞を見てみよう。

作詞は松本隆である。

 

田舎の白い畦道で
埃っぽい風が立ち止る
地べたにペタンとしゃがみこみ
奴らがビー玉はじいてる
 
ギンギンギラギラの太陽なんです
ギンギンギラギラの夏なんです
 
鎮守の森はふかみどり
舞い降りてきた静けさが
古い茶屋の店先に
誰かさんとぶらさがる
 
ホーシーツクツクの蝉の声です
ホーシーツクツクの夏なんです
 
日傘くるくるぼくはたいくつ
日傘くるくるぼくはたいくつ
ルルル…
 
空模様の縫い目を辿って
石畳を駆け抜けると
夏は通り雨と一緒に
連れ立って行ってしまうのです
 
モンモンモコモコの入道雲です
モンモンモコモコの夏なんです

 

なんて美しい!

無駄がない!

それでいて、言いたいことはしっかり伝わってくる。

「ギンギンギラギラ」「モンモンモコモコ」といった日本ならではの表現も素晴らしい。

 

夏をテーマにした歌は数あれど、ここまで美しく、そしてここまで的確に「日本の夏」を表現した歌があっただろうか。

夏の曲といえば、青い海! 白い砂浜! 冷たいビール! といった曲が多い気がする。

これも夏の正しい表情と言えるが、日本にはもうひとつの夏があると思うのだ。

 

どこかの田舎、山に囲まれ、近くには小川が流れている。

少年たちは虫取り網を手に外を走り回り、おやつ時には縁側でスイカをシャクシャクと頬張る。

山の向こうには入道雲がモクモクとしている。

夕立までには帰らなきゃ。

 

たとえ経験したことがなくても、そんな夏の風景を想像できないだろうか。

ボクも縁側でスイカを食べたことなんてない。しかし、どこか懐かしさを感じて胸がキュンとする。

歌詞としっとりしたサウンドが混ざり合い、湿度の高そうな「日本の夏」を見事に表現している。

 

古臭い夏の風景かもしれないが、日本人の心に刻まれている夏を思い起こさせてくれる。

どこでもない、それは「日本の夏」の風景なのだ。

お盆という文化に根付いた、日本の夏なのだ。

 

ボクは神社で遊ぶ少年たちを見て、そんな「日本の夏」を感じた。

ありがとう少年たち! 君たちのおかげで、おじさん、夏を感じることができたよ!

 

なんといっても、はっぴいえんどの魅力はやはり類稀なる歌詞の素晴らしさにある。

それまでの日本語の曲にはなかった「日本らしさ」が満載である。

日本独自の表現、日本ならではの2つの意味を含んだ言葉などを曲の中に詰め込んでいる。

『風街ろまん』はそんな「日本語ロック」が満載の大名盤である。

 

是非一聴してほしい。

 

解散後もメンバーそれぞれは音楽界において、それはそれは素晴らしい功績を残していらっしゃる。

もう語りきれないので、ここでは控えさせてもらうが、たくさんの名曲を生み出した人たちなんです!!!

 

アツくなってしまいました。

今回はこの辺で。

次回からも「日本らしいロック」とは何かについて少しでも紐解けていけたらと思う。

では。

 

 

[ライタープロフィール]

コバン・ミヤガワ
1995年宮崎県生まれ。大学卒業後、イラストレーターとして活動中。趣味は音楽、映画、写真。
Twitter :@koban_miyagawa
HP:https://www.koban-miyagawa.com/

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