耳にコバン 〜ブリットポップ編〜 第9回

  

第9回 「ボクらがほんとに好きなモノ」

コバン・ミヤガワ

 

今現在、世界の人口は70数億と少し。人間はこれからますます増加していくであろう。

 

今月は、こんな深刻そうな語り口から初めてみた。

しかしボクが考えていることは、世界平和でも環境問題でもない。

いつものようにくだらないことを考えている。

 

この膨大な数の人間が誰一人として「嫌いではない」モノは果たして存在するのか。

言い換えれば、全人類が口を揃えて「好きだ」と言うモノはあるのか。

こんなくだらないことを考えていないで、もっと環境問題なんかに心を砕くべきだ。

ごもっともである。

だが気になる。気になるので大真面目に考えてみる。

 

まず食べ物はどうかと考えてみた。

だが、どう探しても全人類が好きな食べ物は思いつかない。それは、摂食行動は五感を最大限に使って行うからだ。故に食べ物は「好き嫌い」がハッキリ分かれる。

食べ物はナシ。

 

飲み物はどうだ。水は皆飲むじゃないか。

しかしこれも違う。

ボクは水そのものが嫌いな人を知っている。無味なのがダメだそうだ。

とはいえ、何らかの「水分」を体内に摂取しているではないか。

そう言われるとそうだが、そもそも生物が生命を維持するのに水や食べ物は必要不可欠。摂取しないと死んでしまう。「好き嫌い」の次元での話ではなくなってくる。

飲み物もナシ。

 

服! 服は皆着るヨネ!

服は皆好きか。

現代において「服が好き」というと、「ファッションに興味がある」という意味合いになる。ファッションに無頓着な人はいる。

そもそもどうして人間は服を着るのか。思い浮かぶ1番の要因は「恥ずかしいから」だろう。皆が服を着ている中、全裸で出歩いたとしたら。というか恥ずかしくて出歩けないし、まず捕まることになる。

夏場、暑いからといって全身スッポンポンで出歩く人はいない。

もしも人類全員が、スッポンポンで街を歩き、スッポンポンで出勤し、スッポンポンで高級レストランで食事する世の中だとしたら、そういう感情もないのかもしれないけれど。

 

服を着ない部族だっている。しかしそれは、服を必要としない気候、習慣のもとで形成された文化であるから、全世界の人々がそうなるとは限らない。

防寒、防護などの面から見ても、服を着るという行為は、知能が発達し、体毛に覆われていない恒温動物にとっての当然の進化であり、「好き嫌い」の観点からは除外される。

服もナシ。

 

考えるに、この問題の回答にはいくつかの条件が与えられる。

・衣食住(着るもの、食べる物、住む場所)には関わらない

・生命活動に直接関わらない

・人間の身近にある

・仮にそれがなくても最悪生きていける

これらの条件を満たしたものは何か。

 

いろいろ考えた結果、最近一番回答に近いであろう物を見つけた。

布団です!

お布団なのですっ!

広くいえば、お布団、ベッドや毛布といった寝具だ。これを嫌いな人はそうそういない。

眠ること自体は生きる上で欠かせないことだが、かと言って、もし布団やベッドがないとしてもソファなんかで眠ることができるし、何なら地べたで眠ることだってできる。

しかしながら、できることなら落ち着く寝床で、落ち着く寝具に包まれながら眠ることを望むはずだ。

 

布団が嫌いな人といえば、1994年公開の映画『レオン』でジャン・レノ演じる主人公レオンが思いつく。ヒットマンである彼は、就寝中に襲われることを恐れ、ソファに座り、銃を持ち、片目ずつ眠っていた。そんなレオンでも、共に生活することになったナタリー・ポートマン演じる少女マチルダに勧められ、久しぶりにベッドで目を閉じると、グーグーいびきをかいて眠ったのだった。

どれだけ嫌がっていても、布団には逆らえないのだ。人間皆、お布団大好き。

 

ボクだってもちろん大好きだ。

ボクは布団派だ。意外と固い布団が好きだったりする。枕は高い方がいい。

季節のせいもあって、起きる時の寒さが嫌で嫌で仕方がない。

できることなら出たくない。

移動すらもフカフカのベッドで行なえばいい。全自動式移動ベッドが欲しいところだ。

昨今、車の自動運転が現実味を帯びてきているが、それは運転している時間すら毛布なんかを被って眠りたいからではないのか。自動運転の車の中をベッドにしてしまえば、そこは楽園だろう。

 

ベッドから出たくない想いを歌にしたバンドがいる。

ザ・シャーラタンズ(The Charlatans)だ。1988年に結成されたバンドである。

ボクの第一印象は「オアシスっぽい!!」であった。映像なんかを観てみると、尚更その印象が強まった。曲もさることながら、ティム・バージェス(ボーカル)の歌い方、歌うときのクネクネとした動き、マイクの高さ、服装、なんなら髪型までリアム・ギャラガー(オアシスのボーカル)に似ている気がする。

オアシスをもっとポップにした様な雰囲気。

ブリットポップ期のバンドの中でも、日本人受けしやすいバンドの1つだと思う。

そんなシャーラタンズの曲の中から、サードアルバム『アップ・トゥ・アワ・ヒップス(Up to Our Hips)』に収録されている一曲、「キャント・ゲット・アウト・オブ・ベッド(Can’t Get Out of Bed)」を紹介していこうと思う。

このアルバム自体は、先ほどお話しした「ポップ感」というよりも、「男臭さ」が際立っているアルバムだ。ポップ感を求めるなら、これより前の二枚のアルバムがオススメだ。

とは言えこのアルバムも、全英チャートで8位にランクインしており、人気を博したアルバムには違いない。

 

 

さあ曲を聴いていこう。

のっぺりとした歌声、軽やかなギター、ドスンと響くリズム隊。それらをキーボードの柔らかな音が下からフワリと持ち上げる。なんだか車かコーヒーのCMにでも使われていそうな曲だ。

曲名通り「ベッドから出られない」と歌っている。果たして、なぜ出られないのか。

歌詞を見ていこう。以下、歌詞の一部である。

 

Don’t let it stand out in the cold

Don’t let it fall into a hole

With someone you know

Don’t let it out in the cold

Don’t let it fall into a hole

With someone you know

 

Can’t get out of bed

You’re keeping it straight

This city’s a mess

Can’t get out of bed

You’re keeping it, keep on, get it together

 

It’s everything you wanted to be,

Wanted to be,

Wanted to be

 

この歌詞から見えてくるのは、街に対する皮肉だ。いかにもブリットポップらしい歌ではないか。

街のことを「mess(散らかっている、混乱している)」と表現している。さらに「hole(穴)」も街のことを指しているのではないだろうか。

 

こんな寒い中、混沌とした穴(街)に自ら落ちることはないじゃないか。

君の信念はまだまっすぐと正しい方向に伸びている。街に飲まれると、歪んでしまうよ。

そんなことを憂いているのだ。ベッドにもぐりながら。

 

なんだか、友達と夜の街に繰り出して、パブやクラブなんかで遊ぼうとしている女性と、それをベッドの上で心配している男性。多分彼は彼女が好きなのだ。そんな構図が浮かんでくる。あくまでもボクの妄想だが。

 

他にも街や友達に惑わされることなく、自分の信念をまっすぐ保て! というメッセージも込められている気もする。いかにもロックなメッセージではないか。

 

街のことを、ベッドというある種隔離された空間から、皮肉めいた目で観察している。

一緒についていけばいいのにベッドからは出られない。そんな勇気なんて持ち合わせちゃいないのだ。単純に眠たいだけかもしれないが。

 

しかしながらベッドでそんなこと考え、憂いているとは!

ボクのくだらない妄想とは大違いだ。

やっぱり人間皆、お布団大好きなのだ。

 

さて今回はシャーラタンズを紹介した。シャーラタンズは現在でも活動しており、いまだにポップでロックなサウンドを届けてくれる。

 

次回は!

「音楽とファッション」について書いていこうと思う。

 

 

[ライタープロフィール]

コバン・ミヤガワ
1995年宮崎県生まれ。大学卒業後、イラストレーターとして活動中。趣味は音楽、映画、写真。
Twitter :@koban_miyagawa

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