耳にコバン 〜ブリットポップ編〜 第7回

  

第7回 「クリスマスっぽさ」考察

コバン・ミヤガワ

 

「クリスマスソングって、クリスマスって感じするよねー」

電車の中で女子高生たちが言っていた。

もうすぐクリスマスということもあり、一歩街に出れば、やれマライア・キャリーとかワム!とか、山下達郎なんかが聴こえてくる。もうそんな時期か。早! 一年早いよ!

しかし、今この原稿を書いている喫茶店で流れているのは、久石譲の「Summer」だ。いや、季節感! 名曲だけども!

 

そんな話はさておき、女子高生たちの会話は何とも当たり前な話だ。何言ってんだか。だってそう作っているんだもの。

しかしふと思った。

「どうしてクリスマスソングは、あんなにクリスマス感があるのか」

季節だろうか? しかし「冬っぽい曲」と「クリスマスソング」はまた別物だ。クリスマスソングには、明らかに「クリスマス」を想像させる力がある。

よくよく考えると深い。

 

ボクは、当たり前に存在する「っぽい」ものをただ受け入れているだけに過ぎないのだ。

実はあの女子高生たちは、深〜い会話をしているんだ!

愚かだったのはボクでございました。少し小馬鹿にしたボクをビンタしてやりたい。

そこでボク個人の見解ではあるが、クリスマスソングの「クリスマスっぽさ」の要因をいくつかリストアップしてみたい。

 

① 鐘とか鈴の音が入っているか

〈シャンシャン〉と鳴る鈴の音や、〈キンコン〉響く鐘の音。これらがクリスマスっぽさに影響している。これはあり得る。というより、これは答えの1つだ。教会の鐘や、サンタクロースの入場曲とでも言うべき鈴の音を曲に盛り込む。クリスマスソングといえばまさしくこれであろう。

そういえば、日本人も大晦日には除夜の鐘を108回つく。もしかしたら人間は、年末年始に鐘をつきたがる習性があるのかもしれない。

 

② 合唱しているか

キリスト教にとって、クリスマスは単なるイベントではなく、大事な意味合いを持つ。教会に行って祈りを捧げ、教会中に聖歌隊の合唱が美しく響く。合唱はやはり聖なる夜に相応しいワケだ。だからこそ、曲の中に合唱の部分が少しでも入っていると、クリスマスの神聖な雰囲気がとても伝わる。

 

③ フワフワ、ソワソワ感があるか

やっぱりクリスマスはフワフワして、ソワソワする。大切な人とすごしたい! とか、クリスマスに恋が実るかも! みたいな気持ち。さらには、街並みのイルミネーションのきらめきなんかを表現していると「クリスマスがやってきた!」という感情に引き込まれる。マライア・キャリーの「あの歌」は雪の上ではしゃぎたくなってくるし、山下達郎の「あの曲」なんて、街のキラキラと、そこに佇む切なさを見事に表現している。

 

④ クリスマス的歌詞か

もう言うまでもない。やっぱり「クリスマス」や「サンタ」とか「サイレント・ナイト」、「ホーリー・ナイト」といったワードは当然想像力を掻き立てる。

詞は大事。やっぱり。

 

もちろん今挙げたものが全てでない。これらの要素がなくても、素晴らしいクリスマスソングはたくさんある。

ただ、「冬っぽい曲」と「クリスマスソング」の違いに、これらの要素は関わっているのではないかと思うのである。

 

さて!

今回紹介するのはブリットポップではないものの、80年代のイギリスで誕生し、いまだに世界中で人気の高いクリスマスソングである。

イギリス生まれのクリスマスソングで一番日本人に馴染みがあるのは、やはりワム!の「ラスト・クリスマス」であろう。この曲は1984年に発表され、世界的なメガヒットを記録した。

だが、この他にもイギリスの名クリスマスソングはたくさんある。

その1つが「ザ・ポーグス(The Pogues)』の曲だ。ザ・ポーグスは、1982年に結成されたケルティックパンクのバンドだが、90年代にも活躍していた。

 

ケルティックとは、ケルト音楽のことだ。

アイルランドの民族音楽なのだが、映画やゲーム好きには馴染みのあるリズムやサウンドだと思う。なんだか剣を装備して、冒険に旅立ちたくなる感じ。ファンタジーが似合う音楽だ。

そんなケルト音楽やパンクなんかをミックスした音楽で人気を博したザ・ポーグス。

個人的には、ビール片手に聴きたいバンドだ。

 

そんなザ・ポーグスの1987年の曲に「Fairytale of New York」という曲がある。邦題は「ニューヨークの夢」。

本当に美しいクリスマスソングなのだ。それでいてパンクの部分も感じられる。歌詞こそクリスマスっぽい歌詞だが、音楽に関しては先ほど列挙したクリスマス的要素のどれとも異なる。

 

 

イントロはピアノから始まり、のっぺりとしたボーカルが歌い出す。いかにも80年代〜90年代といった歌い方だ。

突然テンポが上がり、アコーディオンやバンジョー、マンドリンの音が響き渡る。テンポは速くなったものの、神秘的で美しいサウンドだ。

 

さて、肝心の歌詞だ。

歌詞の物語は、アイルランドからアメリカへ移住してきた夫婦の話。

 

若い頃、キラキラした生活を夢見てアメリカへ渡った2人。

しかし夢見た暮らしとは裏腹に、旦那がアル中になったりで人生は悪い方へ転がり、すっかり歳を取ってしまう。

奥さんは言う。「あなたに夢を奪われたのよ」

旦那が呟く。「まだお前の夢は持ってるぜ。俺だけじゃダメなんだ。お前がいなきゃ」

全く見知らぬ土地で生活し始めた2人。たくさんの苦しいことを乗り越えた2人。でも結局苦難の先に待っていたのは、こんな生活。

それでも、クリスマスに歌われる聖歌に少しだけ救われた気がした。
苦楽を共にした夫婦の愛が、クリスマスを少し温める。

 

泣ける! 泣けちゃう!!

感動ものの一曲である。

 

明るく清らかで、幸せに満ちた歌だけがクリスマスソングじゃない。

なんだか泥臭いクリスマスソング。

こんな歌をケルト音楽のサウンドに乗せるのだから、クリスマスに合わないはずがない。

クリスマスソングが大好きなあなたも、クリスマスソングの眩さがちょっと苦手なあなたも、是非聴いていただきたい。自信を持ってオススメできるクリスマスの一曲である。

 

ここまでつらつらとクリスマスソングについて書いてきた。

しかし極論すれば、「クリスマスっぽさ」を感じるかどうかは皆様次第だ。

曲そのものにクリスマス感がなくても、その曲とともにクリスマスの思い出なんかがあったりして「クリスマス」を感じるのならば、それはあなたにとって立派なクリスマスソングになる。

その逆もしかりで、クリスマスソングとして作られた曲でも、好みじゃなかったり、思い入れがなければ、その曲があなたにとってのクリスマスソングになることは難しいだろう。

 

まあ、好き嫌いが分かれることも音楽の良さだと思う。なんて無責任な締めくくりだろう……

 

結局のところ「クリスマスっぽさ」って何なんだろう。まだまだ「っぽさ」の原因は隠れていそうだ。

あの女子高生たちは、答えが出たのかな……

 

 

今年6月から始まったこの連載。皆様のおかげで、2019年はメモリアルでステキな年になりました。ただの音楽好きだったボクが、こういう風に紹介できるなんて思ってもみませんでした。ボクのヘンテコなイラストや、痩せこけた文章を読んでくださった皆様、そしてこんな素敵な機会をくださった彩流社の皆様に感謝申し上げます。これからもコバン・ミヤガワ、シャカリキ頑張ってみます! ステキな音楽を皆様に紹介していければ幸いです。まだまだワクワクしていきましょう。引き続きよろしくお願いします。

 

メリーメリークリスマス、そして良いお年を。

それでは。

 

シャンシャンシャンシャン……(段々小さくなっていく鈴の音)

 

 

[ライタープロフィール]

コバン・ミヤガワ
1995年宮崎県生まれ。大学卒業後、イラストレーターとして活動中。趣味は音楽、映画、写真。
Twitter :@koban_miyagawa

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