耳にコバン 〜ブリットポップ編〜 第6回

  

 

 

第6回 マッドにしやがれ

コバン・ミヤガワ

生まれて初めてパーマをあてた。
つい先日のことだ。
今ボクは「一体ロン毛になったらどうなってしまうのか」という好奇心で、髪を伸ばしている。今、人生で一番髪が長い。
長いといっても、元々毛量が多いので、横と後ろは刈り上げてバランスをとっている。
しばらく放ったらかしにしていたら、流石に刈り上げている所も長くなったので、切ることにした。
「切ろう!」という意気込みと同時に、また好奇心が芽生えた。

 「パーマあてたらどうなるんかな……」

 こう考え出してしまったら、もうダメだ。
「あてるしかない……!」
しかも、ヤワなパーマではダメだ。
「ゆるふわパーマ? ヌルい! どうせならクルックルにしてやる」
ボクは極端なヘアスタイルが好きだったりする。
「茶髪? ヌルい! どうせなら金か銀だ!」と息巻いて金とか銀髪にしていた時期もある。流石にもう過激に染めることはない。と思う。

 

早速いつもの美容室に行った。
だいたい「髪伸びたねー」という会話から始まる。伸びてなきゃ来ないよ。

「どれくらいパーマあてたいの?」
「クルクルにしてください! 葉加瀬太郎にならない程度で!」
「オッケー。あれはソバージュだからね。あの人も維持が大変だろうね」
「あの髪型で人気出たんで、戻したくても戻しにくいんですかねぇ。アハハ」

そんな会話をしながらパーマをあて始めた。別に葉加瀬太郎さんの髪型が嫌いなわけではない。似合っているとも思う。ただボクはソバージュにする勇気は持ち合わせていない。
美容室では喋っていたい方なので、美容師さんのお子さんの話なんかを聞きながら、ダラダラ喋っていた。
プラスチックの筒を頭中に装着され、シルエットはまるでサザエさんになった。
そしてパーマの液体をかけられ、頭上には何やら機械をセットされ、ボクの頭の周りをグルグル回り始めた。

「頭皮ヒリヒリしないですかー?」
「大丈夫です!」

正直に言おう。めちゃくちゃヒリヒリしていたよ、ボクは。こういうとき、本音を言いづらい。悪い癖だ。
さあ、いざ全工程が終了し、パーマ姿の自分を初めて見た。

「誰だ一体……」

思わず声を上げてしまった。
人間、見慣れないものに対して、こんなにも異形な存在と認識するのか。自分と判断するのに多少の時間が必要だった。
しかし、クルクル具合は素晴らしい!
セットまでしてもらうと、これがなかなか良いじゃないか。美容師さんはやっぱりすごい。
「パーマを楽しんで!」と電車の中のポスターに書いてあるようなセリフを言われ、大満足でボクは美容室を後にした。

 

家に帰っても「見慣れなさ」は残っていた。鏡にモサモサの自分が映るたびに少しドキッとした。案の定、頭皮は荒れて少し痒い。
次の日朝起きて、歯磨きしに洗面台に行き鏡を見ると、

「マッドサイエンティストがおる……」

思わず呟いてしまった。
寝癖もあって、パーマをあてた髪の毛が激しく暴走していたのだ。
この乱れ具合、実験に失敗して爆発に巻き込まれた科学者だよこれ!
白衣着て、フラスコなんかを両手に持ってみろ。完全に世界征服を企む「気狂い科学者」じゃないか!
美容師さんがヘアセットしてくれたときは、あんなにもいい髪の毛具合だったのに。どうしてこうもマッドでモッサモサになるのか。
だとしたら葉加瀬太郎の寝起きはどれほどなんだ! ヘアセットにどれだけ時間がかかるんだ彼は!
とはいえ、この髪型は気に入っているし、しっかりセットすれば、それなりである。しばらくは「マッドサイエンティストヘアー」と付き合っていく所存だ。

 

さあ、今回の音楽のテーマは先ほど出たワード「マッド(mad)」だ。
「マッドサイエンティスト」と言えば「狂った科学者」といった意味になる。
実は「狂った」という意味の「マッド」はイギリス英語だ。アメリカなどでは使われない。「マッド」の一般的な意味は「頭にくる」である。
「気が狂った」という意味合いならば「クレイジー」が同義になるだろう。
UKロックにおいて「マッド」というと、1つのジャンルが思いつく。
「マッドチェスター」というジャンルだ。
この言葉自体は造語だ。「マッド」と「マンチェスター」を組み合わせて「マッドチェスター」と呼ばれる。
マンチェスターとはイギリスの地名だ。サッカーが好きなら、知っている人も多いはず。
マッドチェスターは、ブリットポップのムーブメントより少し前、1980年代後半からマンチェスターを中心に起こった音楽の流れだ。マンチェスターサウンドともいったりする。
ダンスミュージックとドラッグという2つの文化が融合した、サイケデリックな曲が多い。まさにマッド! 狂ってるゼ!

 

ところで皆さん、リバプールというイギリスの都市をご存知だろうか。
ここにも「リバプールサウンド」と呼ばれるムーブメントが存在する(マージービートとも呼ばれる)。
リバプールサウンドの代表といえば、かの有名なビートルズやローリングストーンズ、フーなど、いわゆる皆さんがパッと思いつくであろうイギリスのロックバンドが挙げられる。

このように、イギリスでは都市ごとに様々な文化を反映させた音楽のムーブメントが存在する。「都市とロック」に注目して聴いてみるのも、UKロックの楽しみ方の1つだ。

 

さて、マッドチェスターを代表するバンドにハッピー・マンデーズ(Happy Mondays)というバンドがいた。1984年に結成された、まさしくマッドチェスターらしい、サイケデリックなバンドであった。
特にフロントマンのベズ(Bez)、この人、何にもしないのだ。歌を歌うこともなければ、踊りも適当。盛り上げ役とでも言おうか、ファンモンのDJケミカルのような立ち位置。たまにマラカスを振るくらい。うーん、マッドだなぁ。

このベズと、ボーカルのショーン・ライダー(Shaun Ryder)が、ブリットポップ期、1993年に結成したバンドがある。
ブラック・グレープ(Black Grape)だ。
相変わらず、ベズは何にもしない。盛り上げるだけ。
ブリットポップで、彼らのようにダンサブルでサイケデリックなバンドも珍しい。
今回はそんなブラック・グレープの1995年のアルバム『It’s Great When You’re Straight… Yeah』というアルバムを紹介したい。

 

 

ジャケットから漂うサイケ感……。アンディ・ウォーホルの絵画みたい。
なんとこのアルバム、全英一位に輝いている。ジャケットのインパクトも効果があるのかもしれない。
このアルバムで聴いていただきたいのは「Kelly’s Heroes」だ。
今まで紹介してきた曲よりも、もっとリズミカルだ。体を上下に揺らし、ダンスしたくなるミュージック。そこにショーンの、しゃがれてのっぺりとしたボーカル。
歌詞では、宗教への皮肉が見てとれる。そんなこと言っちゃっていいの!? とビックリするほどだ。
「キリストは黒人だったんだぜ!」、「キリストはバットマンだったんだぜ!」なんて平気で言ってしまうのだ。圧倒的皮肉だ。と同時にどこか聖歌のような部分も感じる。

 

ブラック・グレープは「ブラック」とついているからか、ブラックミュージックとの繋がりも大いに感じる部分が多い。ヒップホップのようで、はたまた聖歌のようで、でも皮肉を忘れない。
他にも「Reverend Black Grape」という曲は「ブラック・グレープ牧師」という意味だ。歌はなんだかラップのようだが、曲の中で説教をしているようにも聞こえる。
このような要素を、マッドチェスターな曲に乗せて歌う。これはこれで良い!
陽気でどこか狂気染みている方が、受け入れられやすいのだろうか。

ブラック・グレープは、これまでに紹介してきた単純な過去のリバイバルという構図ではない。
ブリットポップにブラックミュージックという新たな風を吹かせたバンドと言っても良いのではないか。
そもそもブラックミュージックも大好きなボクにとってブラック・グレープは、願ったり叶ったりなバンドなのである。

 

 

[ライタープロフィール]

コバン・ミヤガワ
1995年宮崎県生まれ。大学卒業後、イラストレーターとして活動中。趣味は音楽、映画、写真。
Twitter :@koban_miyagawa

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