「起業」女子 〜コロナ禍でも前向きに生きる〜 第1回

  

取材・撮影 伊藤ひろみ

 結婚、出産、転勤、転職、さらに離婚、再婚……。さまざまな人生の転機に、生き方や活躍の場を模索する人たちは多い。しかし、自身で新しくビジネスを立ち上げるのは、容易なことではない。近年、自らの夢を叶えるべく起業した女性たちを取材。明るく前向きに努力を続ける姿は、コロナ禍における希望の光でもある。彼女たちの生の声を聞き、その仕事ぶりや日常に迫る。

 

「家族のために」が原点。
手作りパンとパン教室で私スタイルのビジネスにつなげた
 ななキッチン   関根ゆきこさん

 

店内のキッチンで仕込みをする関根ゆきこさん。
定番メニューのほか、新商品も開発にも余念がない。

 手作りパン教室「ななキッチン」がオープンしたのは、2015年5月のこと。東京都豊島区南池袋で小さな場所を借りてのスタートだった。2020年7月、豊島区南大塚へ移転。現在、ここで火曜・日曜は手作りパンを販売し、他の曜日はパン教室などを開いている。
 オーナーは関根ゆきこさん(49)。パンの製造販売から店舗の管理、来店する顧客対応など、何役もこなしながら、店内をパワフルに動きまわっている。手作りパンのこだわりは、100%国産小麦を使用。卵や牛乳などの乳製品は使わず、アレルギーを持つ人にも食べてもらえるものを提供している。コロナ禍でパン教室を一時中止していたが、感染対策を講じながら、レッスンを再開した。

 

日曜日と火曜日は手作りパンが店頭に並び、焼きたてパンの香りが店内いっぱいに広がる。
ポップもすべて関根さんの手作り。

 東京生まれの関根さんは5人兄弟姉妹の長女。年下の兄弟姉妹の世話をするのが当たり前の日常のなかで過ごしてきた。もともと何かをつくるのが大好き、家族のために料理をしたり、手芸をしたり。小学校3年生のときに始めた編み物にも夢中になった。好きが高じ、さらにまわりの人たちに喜んでもらえたことで、どんどん磨きがかかっていく。「作ることが楽しい」がすべての原動力。そして、「誰かのために」。
 やがて4人の子供の母となる。今度は自分の子供たちのためにと、手作りのパンに挑戦するも、失敗の連続。「自分で作れるようになりたい」。そんな思いから、パン教室へ通い始めたのは、まだ子供が小さなころだった。
「おもしろい! 楽しい!」 手作り大好き気質に火がついたのか、パン作りにのめりこみ、めきめき腕も上げていく。次々と講座を修了し、製パンのディプロマも取得した。そんな折、家計を支えるため、関根さんも働き口を探さなければならなくなった。強みはこの腕。新しくパン作り講座を始める学校に講師として応募し、採用が決まった。とはいうものの、家事も子育てもしながらの就職である。まだ下の子2人が2歳と0歳、あれこれ手がかかる年齢だ。レッスン講師のアキのある夜間と土日の講座だけにしぼり、留守の間は、家族やママ友に面倒をみてもらうことで切り抜けた。
 
 多忙な日々が続く。しかし、幼いころから大好きな世界。そこに関わることができるのは、何よりの幸せだった。指導のかたわら、レストランやパン屋のレッスンアシスタントを務めたり、企業や学校でのパンレッスンを引き受けたりするなど、貪欲に仕事に取り組んでいく。趣味をこえて、仕事として引き受けることは、責任も重いが、喜びも大きい。やりがいもある。とはいうものの、雇われる立場の不自由さも感じ始めていた。
「いつかは、自分でやりたい」
 
 夢を夢で終わらせないために、資金を貯めた。「たとえ事業としてふるわなかったとしても、2年は続けよう」、そう覚悟を決めて独立した。かつての受講生や友人・知人が習いに来てくれるようになり、少しずつながら動き始める。当時はまだパン教室が少なかったことも功を奏したようだ。何より、関根ファンたちの熱い応援が後押しした。本格的にパンと関わり始めて15年が過ぎていた。
 
 現在、パン教室は単発レッスンを中心に開いている。登録者は、のべ約250名。初心者からパン教室を開くほどのベテラン受講生まで幅広いニーズに対応している。取材日は、古くからの生徒2名が参加していた。この日のメニューは、生地にコーヒーを混ぜ込み、フィリングにあんを使ったコーヒーあんぱん。関根さん自身がデモンストレーションしながら説明し、受講生がそれに倣って手を動かす。手取り足取りフォローする密度の濃いレッスンだ。受講生のまいさんは、「パン作りは、発酵などの待ち時間もあり、ゆっくりのんびり楽しめるのが魅力」だと語る。できあがりを待つ間、女子トークに花が咲くことも少なくない。
 

感染対策を講じながら、パン教室の指導も精力的に行っている。
長年通い続けているレッスン生も少なくない。

 きめ細やかな指導を心がけながら、気楽に参加してもらえる雰囲気にしたいと関根さん。
 自宅でも作れるようにすぐに購入できる食材、家庭用のオーブンで作成できるレシピを充実させている。
 持ち前の明るく人懐こいキャラクターで、レッスン生はもとより、パンを買いに来たお客さんも、ランチやお茶を飲みに訪れたお客さんも、次々とリピーターになっていく。それこそが、関根マジック。ななキッチンの魅力だった。

二人のお子さんの名前を一文字ずつとり、「ななキッチン」という店名に。
ランチなど店内飲食も可能。

 

(コロナ感染状況などを鑑みながらフレキシブルに対応している。最新情報は随時SNSで発信中)

 

〒170−0005 東京都豊島区南大塚3−30−12 アキユキレジデンス1階
TEL 050−3592−7711
https://www.instagram.com/yukiko.nanakitchen/
Mail: info★nana-kitchen.com(★を@へ換えてください)

 

 

[ライタープロフィール]
伊藤ひろみ
ライター・編集者。出版社での編集者勤務を経てフリーに。航空会社の機内誌、フリーペーパーなどに紀行文やエッセイを寄稿。2019年、『マルタ 地中海楽園ガイド』(彩流社刊)を上梓した。インタビュー取材も得意とし、幅広く執筆活動を行っている。立教大学大学院文学研究科修士課程修了。日本旅行作家協会会員。