「起業」女子 〜コロナ禍でも前向きに生きる〜 第2回

  

取材 伊藤ひろみ

 結婚、出産、転勤、転職、さらに離婚、再婚……。さまざまな人生の転機に、生き方や活躍の場を模索する人たちは多い。しかし、自身で新しくビジネスを立ち上げるのは、容易なことではない。近年、自らの夢を叶えるべく起業した女性たちを取材。明るく前向きに努力を続ける姿は、コロナ禍における希望の光でもある。彼女たちの生の声を聞き、その仕事ぶりや日常に迫る。

 

写真で自らの人生を変えた
スタジオアペックス
代表・カメラマン 鳥居奈津子さん

 

「プロフィール写真で人生が変わる」は、鳥居奈津子さん(43)が経営するフォトスタジオアペックスのキャッチフレーズ。東京池袋のビルの2階に自身の撮影スタジオを持ち、自らカメラマンとしてシャッターを切る。取材日も朝から撮影を希望する予約客の対応に追われていた。

プロフィール写真を撮影する鳥居さん

スタジオ内でプロフィール写真を撮影する鳥居さん。
時間をかけ、納得いくまでシャッターを切り続ける。
(写真提供:鳥居奈津子氏、以下同)

 

 歌うことが大好きで、歌手になることを夢みていた10代のころ。芸能事務所に入ったのは16歳のときだった。華やかな舞台に立てる日を夢見ながらも、鳴かず飛ばずの日々。ミニスカート姿で街頭に立ち、企業の新商品のPR活動を行うなど、予想外のオファーも入ってきたが、声がかかればノーとは言えなかった。歌とは直接関係ない仕事であるばかりか、鳥居さん自身が積極的に受けたくないと感じていたとしても。

 そんな折、とある撮影会に出たことが、カメラを知るきっかけとなった。そこでは、アマチュアカメラマンたちが集い、モデル撮影するというもの。鳥居さんは撮られる側としての参加だったが、写真愛好家たちと出会い、親しくなった。彼らからカメラや写真について教わることで、撮る側にもこんなにこだわりや思い、技術の奥深い世界があったのかと気づいたのである。さらに、初めて一眼レフカメラを購入し、自ら撮影し始めた。撮影会や写真展などにも通うようになった。とはいうものの、このころの目指す道は、やっぱり歌うことだった。

 いくつものオーディションを受けながら、その合間をぬってアルバイトをかけもちする日々。飲食店のホール係、工場での検品作業員、コールセンターのオペレーターなど、できる仕事はなんでもやった。しかし、少しずつ自分でも感じ始めていた。「私は歌手にはなれない」と。

 心機一転したのは、25歳のとき。芸能事務所を辞め、広告代理店で働き始めた。写真が趣味だと伝えていたこともあり、運よく撮影担当になった。自分が撮ったものが具体的な形になって現れる、それが素直にうれしかった。そこで2年ほど勤めたあと、写真スタジオのスタッフなどとして、写真やカメラに関わる仕事を続けた。

 そのころ、プライベートでの変化が訪れる。結婚、出産と続き、しばらく仕事を離れ専業主婦に。子どもに手がかからないようになったころから、カメラ機材の会社を手伝い始めた。本格的な仕事復帰は、スタジオアペックスの社員になったこと。鳥居さんは、写真スタジオ部門の責任者を任され、店長として7年間働いた。そして、元オーナーがそのスタジオを手放すことを知り、それなら私が、とその看板を引き継ぐことに。自らの会社となったのが、2020年4月。コロナ禍での新たな船出だった。

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撮影時は、誰もが緊張するもの。
リラックスできる雰囲気を作ることも大切な役目。

 

 芸能事務所に所属していたころは、撮られる立場だった。オーディション用のプロフィール写真を撮影してくれるスタジオを渡り歩いたが、あがってきた写真に納得がいかないことばかり。写った自分の姿に幻滅し、自分が嫌いになってしまうことさえあった。そんな経験を経たからこそ、依頼する側の気持ちが痛いほどよくわかる。彼女らが何を求めているのか、どんな写真を撮ってもらいたいのかということを。

 スタジオアペックスの強みは、まさにそこにある。撮影前にプロのヘアメイクがつき、念入りにヘアメイクする。準備が整ったら、スタジオへ移動。時間をかけ、納得いくまで何カットも撮影する。ヘアメイクで約1時間、撮影に約30分。さらに、リクエストに応じて、ヘアメイク前には、1時間ほどかけて、小顔エステも行っている。数年前、PARAFUSE.スクールで脳洗浄という小顔調整の資格を取得。スタジオ内で鳥居さん自ら手を動かす。ひとりひとりに向き合う時間が長い分、仕事としてこなせる人数は限られるが、それこそが鳥居さん流のこだわり。撮影中はもちろん、準備の時間も含め、お客さんとのコミュニケーションを大切にし、全力で対応するよう努めている。

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撮影スタジオの横は、準備のためのスペース。
ヘアメイクはプロに依頼し、ここで準備する。
鳥居さん自ら小顔エステも行う。

 

 自分の「好き」を必死で追い続けてきた鳥居さん。ひとつめの夢に向かって、もがき続け、苦しんだ時期もあった。その夢は叶わなかったが、もうひとつの「好き」を追求し、自分のビジネスにつなげた。撮影機材の多くは、元のスタジオオーナーから譲ってもらったが、それ以外は机ひとつからのスタートである。立ち上げ資金は友人たちの助けを借りるなどして、なんとか工面した。あれから約1年余り。口コミやSNSなどで、少しずつ認知されるようになってきたという。鳥居さんの肩書は、スタジオアペックス代表兼カメラマン。撮影を担うだけのカメラマンというより、すべてをアレンジするコーディネーターに近い。

 悩み、もがき、苦しんだ時期があったからこそ、今がある。すべてを仕切れる立場になったのは爽快だが、その分責任も重い。撮られる立場から撮る立場へ。まさに、「写真で人生を変えた」ひとりだった。

 

STUDIO apex(スタジオアペックス)
〒170-0014 東京都豊島区池袋2-15-2 武蔵屋第二ビル2階
03-3981-3066
https://studio-apex.com/

 

 

[ライタープロフィール]

伊藤ひろみ

ライター・編集者。出版社での編集者勤務を経てフリーに。航空会社の機内誌、フリーペーパーなどに紀行文やエッセイを寄稿。2019年、『マルタ 地中海楽園ガイド』(彩流社刊)を上梓した。インタビュー取材も得意とし、幅広く執筆活動を行っている。立教大学大学院文学研究科修士課程修了。日本旅行作家協会会員。