歩く民主主義 第9回

  

第9回 オールドスタイル、ニュースタイル 〜奄美大島を歩く〜

村上稔

 

仕事を絡めて奄美大島へ行ってきた。飛行機は関空から初体験のLCC、ピーチである。関空第2ターミナルの国内線は拍子抜けするほど簡素な建物でガランとしていてピーチの搭乗カウンターだけがある。LCCの特徴は、持ち込み荷物の大きさや重さが制限されていて預けると別料金がかかるという点だが、そのために私のようなケチな人間は料金内にしようと努力をするので、結果的に軽くて小さなものに収まって悪くない。

機内は大手航空会社に比べてシンプルだ。座席の手すりにはゴチャゴチャといろんなものが付いてない。モニターもなくて非常時の脱出をどう説明するのだろうと思っていたら、キャビンアテンダントさんが通路に立って昔ながらのデモンストレーションをしてくれた。そうか、ちょっと前まではこれだったのだ。

飛行機におなじみの飲み物サービスは有料。だがメニューを見るとジュースやコーヒーも300円ぐらいで高くない。CAさんの雰囲気もどこか違う。なんだろうと思って観察してみると、髪の色が茶髪だったり金髪だったりで、ヘヤースタイルや化粧もそれぞれ。何より振る舞いが硬くなく自然で気持ちがいい。

「カジュアル」という言葉が思い浮かんだ。これで何の支障もない。というか、僕はどこか気軽な心地よさを感じていた。何より料金が往復でたった1万円程。ストレスも抜けるというものだ。そこで僕は閃いた。現代はこちらの方が当たり前で、大手の方が時代遅れのオールドスタイルなのではないかと。

考えてみたら、いろんな移動手段の中でなぜか飛行機だけが特別だ。電車やフェリーではCAなんていないし飲み物サービスなんてない。飛行機だけ何が違うのか。

ふむ、ほんの数十年昔は、飛行機は金持ちの乗るもの、もしくは一般人には一生に一回の大イベントだったのだ。料金も当然高い。そこでの満足度を高めるために応じたのが過剰なまでのサービスで、それが今や誰でもが利用するようになったにもかかわらず、前時代の遺産として残っているのではないか。料金は他社との競争で安くせざるを得ず、サービスは落とせないとなれば、そのビジネスモデルは時代に合わなくなっていく。

今やI Tとスマホの時代になって久しい。そこにかかる人件費や諸々の固定費は格段に安くなるのだから、LCCというビジネスモデルがニュースタイルになるのは自然の成り行きなのだ。

 

そういえば我が徳島駅前では、「そごう」がこの8月に撤退することが決まった。これで徳島は百貨店ゼロ県になる。だけど先のような考えでいくと、百貨店もやはりオールドスタイルだろう。ちょっと寂しいけど、エレベータガールなんて残念ながら古き良き時代の産物であることは違いない。

そんなことを考えたら「学校」なんかオールドスタイルの最たるものかも(どんどん話が飛んですみません)。息子がこの春で高校を卒業なのだが、この間の進路指導などを横目で見ていたら、私の時代(35年前)と寸分違わない。つまり、良い大学を目指して必死に勉強しなさいの一点張りである。35年前といえばポケベル(鳴るだけでメッセージも出ないヤツ)の時代である。メールなんてもちろん無いしファックスもない。今とライフスタイルもビジネススタイルも全く違う。なのに教育現場だけが1ミリも変わってないのだ。これは国家的損失のオールドスタイルだと思う。GAFAのような企業が生まれないのも故なしとしないだろう。

 

奄美大島ではレンタカーを借りて3日間走り回ったのだが、初日の終わりに同行者が呟いた。「外車が全く走ってなかったね」と。そう言われて翌日から注意をして見ていたのだが、ベンツ、アウディ、BMWをついに一台も見なかった。徳島などその3種の外車だらけ。数台ごとにベンツとすれ違う。外車なんて「好き」であることを除いたら、金食い虫だし気を使うし良いところなんてほぼ無い。こんなにも「車好きの趣味人」が多いはずは無いので、その多くが「ステータス=見栄」なのだろう。しかしこんな心情も今やオールドスタイルではないか。単にディーラーが無い、という事情もあるだろうが、それよりも、みんなが知りあいの小さな島では、互いに見栄を張り合う必要がないのではないだろうか。

その考えを補完したのが島の中心部にあるアーケード街である。私は市会議員時代から全国を視察しているが、今、地方のアーケード街はほぼ全滅でシャッター街になっている。ところがたった6万人の奄美大島のアーケードは、ほとんどの店が開いていて、朝から人の往来があるのでビックリした。地元の人に言わせれば、以前よりもずいぶん寂れたということだが、全国はほぼ壊滅状態なのだから、これは実に驚くべきことである。

文字通りの「ガラパゴス」なのであろう。「行くところ」が無いから地元で経済がこじんまりと回っているのだ。その点、徳島なんて一時間ちょいで神戸や大阪まで行けるものだから、消費はダダ漏れで中心市街地は閑古鳥なのである。

そして夜の繁華街にも同じことが言えた。昭和なネオン街がそれなりに賑わっている。何よりカルチャーショックだったのは、盛り上がり方が本土と違うのだ。我々は2軒を梯子したのだが、お客全員が家族のようにワイワイと幸せいっぱいの顔をして盛り上がっているのだ。

豪華な外車を誇りながら人の歩いていない寂しい街に住むよりも、軽自動車で給料が安くても、人が行き交うあったかい街で幸せを感じる……これこそが古くて実は新しいニュースタイルの生き方なのではないだろうか、なんてほろ酔いアタマで考えを張り巡らせ、島の夜は更けていくのであった。

 

 

[ライタープロフィール]

村上稔

(株)Tサポート代表取締役 沖縄国際大学特別研究員 元・徳島市議会議員

著書『希望を捨てない市民政治』『買い物難民を救え!移動スーパーとくし丸の挑戦』『歩く民主主義』(緑風出版)『ひとびとの精神史第8・9巻』(共著・岩波書店)ほか。