歩く民主主義 第8回

  

第8回 世の中すべてカネか?

村上稔

 

ちょっと何かを勉強し始めると、自分は歳だけ食って何も知らないなあ、といつも反省させられるのである。

なんでトランプみたいなヤバそうな人間が大統領になれるのか不思議でたまらなかったが「お金」について少し勉強すると見えてくるものがある。お金をものさしにして考えるとこの世はもっと単純、というか複雑? ……一体どっちやねん? という感じだが、要するにこれまでと違った見え方がしてくる。

そのトランプの友達のロバートキヨサキが書いたベストセラー『金持ち父さん貧乏父さん』を遅ればせながら読んだ。

中身は、要するにこの資本主義の世の中ではみんなが「ラットレース」を強いられている、そこを抜け出して自由になりたいと思ったら「ビジネスオーナー」か「投資家」になるしか方法はないよというものだ。

ラットレースというのは逃げられないケージの中で、いつまでもクルクルと輪の中を走らされるということ。上を目指して毎日努力をし続けるのだけれど、永遠にそこから動けない哀れなネズミのような人生のことだ。

ラットレースをしているのは「雇われている人(会社員や公務員)」や「自営業者」。つまり我々のほとんどだ。要するに、食べるために働いてる限りは自由とは程遠いというのである。「働かざるもの食うべからず」などという言葉もあるが、たしかに現実には働かずに楽しそうに生きている金持ちがたくさんいる。

ピケティは『21世紀の資本』の中で「r>g」、歴史を見ると「働いた稼ぎ」よりも「不労所得(投資での儲け)」の方が大きいということを証明した。『金持ち父さん…』に書かれていることは、どうも否定し難い真実のように思えるのである。

 

「自由になりたい」というのは僕だけでなく、今を生きるほとんどの人たちの願いではないかと思う。そこに向かってみんなもがく。

僕は20代の半ばからダム建設反対運動の中に生きる意味=人間解放への道を見出していたのだが、いくら大きな住民運動で一時的な勝利を得ても、世の中は粛々と資本主義という金の原理に飲み込まれていく。人間の英知に対して弱肉強食という大柱は頑として緩む気配を見せない。いまや僕も零細ながら会社の経営者になり、資本主義者として日々を生きている。大多数の人がそうであるように、金儲けが考えることの中心という人生だ。

 

『金持ち父さん…』に刺激を受け、続いて会計学の入門書を読んだ。財務諸表を読めなければ世の中の裏がわからない、というので渋々手を出したのだが、これが割と面白かった。

本の中では朝日新聞社の財務諸表を例に解説してあるのだが、そこで僕は驚くと同時に痛く納得した。朝日新聞は言わずとしれた左寄りの新聞だが、その財務諸表から見えてくるのは、本業のジリ貧状態と不動産業での儲けだった。

新聞社がなんで不動産、と思われるかもしれないが、たいていの新聞社は一等地に大きな自社ビルを持っている。このテナントからの賃貸収入だけでも相当なものになるし、あちこちに優良な不動産を所持しているという。

この手の「噂話」は聞いたことがあったが、財務諸表という嘘のない数字を見せられたら信じないわけにはいかない。毎日新聞や他の大手新聞社のほとんどが同じような収益構造だという。つまりいまや新聞社は、新聞でなく不動産という投資で儲けているのだ。

別に人の儲けを非難する気はないのだが、この構図から世の中を見ると、やや暗澹たる疑念にかられる。というのも、少し株でも買ってみたら分かるが、投資の儲けは世の中の動きに合わせて激しく変動する。影響力の大きい、いわゆるインフルエンサーが何を発言するかで大きく儲かったり損したりする。これは逆に権力を持つ側に回ると、いくらでもおいしい目ができるということだ。

インサイダー取引は禁止されているが、情報は権力者の胸の中にあって、いつどう発信するかは自由だ。プロの投資家は相場が上がれば儲かるし下がっても先売りで儲ける。トランプや習近平を頂点とした権力に近寄りたい人たちが大勢いるのは至極当然のことなのだ。そしてジャーナリズムも一つの権力であるし新聞社は紛れもないインフルエンサーだ。

欲望は果てしなく増大して時に地獄を見せる。

投資マインドを持った権力者が正義を盾にミサイルを一発打ち込んだら、そこで大きく儲ける人たちがいるし、金儲けがチラついた新聞記者なんていない、と考えるのはお人好しすぎる。右も左もインフルエンサー自身が投資家なのだ。自分自身の頭で考え、騙されないようにしなければカモにされて命まで奪われる世の中なのである。

こんなややこしいゲームの中で、どうやって元気を出して生きていくか。いや、コトがわかればやりようはあると思うのだが。

 

 

[ライタープロフィール]

村上稔

(株)Tサポート代表取締役 沖縄国際大学特別研究員 元・徳島市議会議員

著書『希望を捨てない市民政治』『買い物難民を救え!移動スーパーとくし丸の挑戦』『歩く民主主義』(緑風出版)『ひとびとの精神史第8・9巻』(共著・岩波書店)ほか。