歩く民主主義 第7回

  

第7回 矢沢永吉ビジネス論  後編

村上稔

 

永ちゃんは金を稼ぐのが天才的にうまい。

僕も小さな会社を経営しているので多少はビジネス書なども読むのだが、永ちゃんのやり方はビジネスの教科書に載ってもいいほど理論に適っている。

まずはブランド作り。商品の中身と世間的なイメージは商売の成否を左右するが、永ちゃんはこれを手抜きなしで徹底的に高めている。そして全てにおいて一石二鳥、三鳥を狙っている。

もちろん永ちゃんのコアにあるのは「良い音楽を作る才能」だ。僕は中三の時に『ルイジアンナ』のギャッギャ〜ンというイントロに出会って以来、30年以上も永ちゃん音楽に引き込まれている。しかし永ちゃんはその自分の才能をプロデュースするのも天才だった。

先のNHKのドキュメンタリーもそうだが、番組の中では永ちゃんの徹底的にストイックな音作りが強調されている。まずは「一人でロスのスタジオにやってきた」というところからシビれさせ、ドラムの一つの音、ギターの一つのフレーズを、一流の凄腕ミュージシャンたちに指示を出して、これでもかと作り込んでいく様子をカメラが追う。そして休日には仲間たちとリラックスしてハーレーを飛ばす姿が映され、そのカッコ良さに僕たちは酔う。

こんなものを見せられたらもうCDを買うしかないではないか。

うがった見方をすると、僕は永ちゃんのドキュメンタリー番組の制作総指揮は絶対に永ちゃん自身だと思っている。編集とかにまで口出しをしている気がする。僕は大学を卒業してから少しの間、ドラマの撮影所で働いていたこともあるのでわかるのだが、テレビ業界でスターの権力は強い。永ちゃんは自分自身のブランドをスーパースターにまで高めているので、もし自分の番組を作りたかったら、たぶん電話一本でテレビ局の制作部長が飛んでくるだろう。そこで永ちゃんは高い「広告」を出さなくともプロモーションできるのだ。

ビジネス的にいうと、これは新規顧客開拓だ。ただCDを出してショップに並べてもファン以外には目に止まらない。ファンはやがて飽きていくのが世の常だから、ビジネスを継続・発展させていこうと思ったら新規顧客開拓が不可欠だ。その意味でまだまだテレビの影響力は大きい。永ちゃんはビジネスマンとして、こんな努力を長年にわたって続けてきたのだと思う。

またバラエティのコメンテーターの話だが、例えば武道館コンサートが始まってからロビーの永ちゃんグッズで「赤のタオル」の売れ行きが悪いと知ったら、次の曲では赤のタオルをかけて出てくる。当然のようにその日、赤のタオルは完売というわけだ。真実かどうか定かではないが、こういう情熱と商売センスのある人は天然の「商売人」なのだと思う。

他にも、永ちゃん公式バーというのがあるのだが、ホームページでメニューを見てみたら、すべてのカクテルが曲のタイトルになっていてファンなら飲んでみたくなる。一律1200円でなかなかイイ値段だ。なんだかガツついた商売人と紙一重だが、永ちゃんならこれが美学になるから不思議だ。

 

僕は、永ちゃんのカリスマ的人気の秘密は、音楽や美学、生き様だけでなく、「しっかりと金を稼ぐ」という力強さにもあるのではないか、と思っている。

今の日本は紛れもない資本主義なのだから、そのシステムの中での勝者、「金を稼ぐ人」に魅力があるのは否定できない。アメリカのトランプ大統領なんて、まさにその点だけで支持されているのであろう。

ただ、資本主義の原動力は「搾取」だ。前編でも書いたが、経済縮小期に入った昨今、仕事でも消費でも「搾取されてる感」が半端ない。そんな時代に、誰からも搾取されず、一人で勝負して自由を謳歌するヒーローが永ちゃんなのだ。(まあ我々は永ちゃんのCDやカクテルに搾取されているのだがw)

 

ところで「欲望」はパワーそのものだ。生きる原動力であり元気の源だ。永ちゃんなんかギラギラの欲望を糧にしてのし上がってきたのだと思う。

しかしある動画の中で永ちゃんが、若いインタビュアーに忠告をする場面が出てくる。その中で永ちゃん曰く「自分の中の欲望が敵ですよ」と。

僕はこれを聞いて意外な気がした。永ちゃんは欲望を最高の「味方」にして生きてきたのでは無いか。そこで思い出したのだが、このインタビュー当時、永ちゃんは部下の詐欺に遭って30億円以上の負債を抱えている。普通の人間なら「オワタ」となるが、永ちゃんはそこから復活した。なるほど、「欲望の恐ろしさ」を桁違いにわかっているのも永ちゃんなのだ。

欲望は人を元気にするが、時に破壊力ともなる。身の丈を超えた消費をすれば家計を壊す。不倫をすれば家庭を壊すし、飲み過ぎ食べ過ぎは体を壊す。そんな欲望を否定せず、いかにコントロールして生きていく力に変えるか。

詰まるところ永遠のテーマなのだが、これの最高の成功者こそが矢沢永吉であって、それゆえ永ちゃんは、みんなに元気を与え続けるスーパースターなのだと思う。

 

 

[ライタープロフィール]

村上稔

(株)Tサポート代表取締役 沖縄国際大学特別研究員 元・徳島市議会議員

著書『希望を捨てない市民政治』『買い物難民を救え!移動スーパーとくし丸の挑戦』『歩く民主主義』(緑風出版)『ひとびとの精神史第8・9巻』(共著・岩波書店)ほか。