歩く民主主義 第6回

  

第6回 矢沢永吉ビジネス論  前編

村上稔

 

永ちゃんが好きだ。

中三の時にキャロルの音楽に出会って「ファンキーモンキーベイビー」や「ルイジアナ」に衝撃を受けた。家が金持ちの友達にベースギターを借りてバンドをはじめ、高校生になって学園祭で演奏した。めちゃくちゃ下手くそだったと思うけど、五十三歳になった今でも時々ステージに立つ夢を見る。たいていは、全く練習をしていないのイントロが始まって「ヤバい」と焦っている悪夢なのだが、時々はカッコいいステージアクションで女子生徒にキャアキャア叫ばれたりしている。ほとんどトラウマと言えなくもないが、僕の人生にとって、よほどインパクトのある経験だったのだろうと思う。なので永ちゃんこと矢沢永吉の存在は、中三の時以来、僕の中でずっしりと居座っているのである。

高校を卒業したくらいからはあまり永ちゃんを聴かなくなった。ローリングストーンズとか、邦楽でももっとワイルドな感じのロックとか、ボブマーリーとか、カリブ系のエスニック音楽とかが好きになり、永ちゃんは何となく演歌っぽくてカッコ悪い気がして遠ざかっていた。

それでも時々……十年に一回ぐらい無性に聴きたくなることがあってCDを借りたりしていた。歳をとってきたせいかもしれない。銭湯のサウナで流れている演歌の歌詞が妙に身に染みたりする今日この頃、またもや七年ぶりに出た永ちゃんの新譜を買ってハマっているのである(そう言えばCD自体、この前はいつ買ったか忘れてしまうぐらい買ってない)。

 

きっかけは今年の夏に放映されたNHKのドキュメンタリーをYouTubeで見たことだ。六九歳(九月に七十歳)の永ちゃんが、七年ぶりのCDを録音するためにアメリカ西海岸を訪ねるところから番組は始まる。

まず感動したのは、永ちゃんがマネージャーや通訳も連れず、たった一人でスタジオに来て名だたるミュージシャンにビシビシと指示を出している姿である。そして納得のフレーズが録れたらその場でチャッと小切手を切って渡す。これが他の人間だったらウザいかもしれないけども、他でもない永ちゃんだからカッコいい。

他のシーンでは、本邦初公開で永ちゃんのクルーザーに招かれてインタビューをする。豪華クルーザーの応接室にどっかと座る永ちゃんの後ろには横長の大きなミラーがあって、金色のでっかい「E YAZAWA」のロゴマークがまぶしい。

いや〜カッコいいなあ、とシビれつつ僕は頭の片隅で「CD買おうかな」とか「久々にYAZAWAロゴのタオルが欲しいな」とか思っている。で、実際にCDを買ってこのところ毎日聴いているのである。

 

そこで本論に入るのだが、ビジネスやマーケティング、もしくはこれからの生き方という観点から永ちゃんを見たとき、学ぶべきものが多いのに気づくのである。

まず、「一人で勝負する」という生き方。永ちゃんには『アリよさらば』に代表されるように、一人で勝負して生きていく美学を歌った曲も多いが、何より本人が常にそれを体現している。

一人で勝負する、の反対は「企業や役所に就職する」「会社員になる」ということだろうが、僕は今、サラリーマンという生き方に大きな疑問とリスクを感じる。僕自身、会社員もしたし今は小さな会社を経営しているので両面から実感としてわかるのだが、会社は基本的に従業員を搾取する。株主や経営陣がたくさんの金を取るために、従業員をいかに少ない給料でたくさん働かせるか、を考えているのが会社の自然な姿なのである。

もちろんヒューマンな、従業員のことを大切に考えている良い経営者もいる。僕もその一人だ(と自分では思っている)。だけどこれは構造的な問題で、資本主義の中の会社というものが、そもそもそういう風に成り立っているのだから結局のところ逃れられない。

 

日本の人口がどんどん増えて右肩上がりの経済成長の時代は、多分それでも良かったのだと思う。平社員から係長、課長、部長、幹部とキャリアの階段を上がるにつれ、乗る車は軽からカローラ、マークⅡ、クラウンとグレードアップした。「いつかはクラウン」というCMのキャッチフレーズが日本男子のモチベーションを引っ張っていたのだ。

同じように飲む酒も焼酎からビール、ウイスキーならトリスからサントリー角、外国のウイスキー、最高峰はブランデーのナポレオンと序列があった。友達の家に行くと、よくナポレオンが応接のガラス棚の中にトロフィーのように陳列されているのを見た。

八十年代ぐらいまでだろうか、日本人は少し辛抱して会社員のレールにさえ乗っていれば、そこそこの給料をもらって人生のキャリアを全うできたのである。(若い人には信じられないだろうが、普通の人でも六十歳で引退、退職金と年金で老後は悠々自適だったのだ!)

しかしそれも昔々のお話。今はほとんどのサラリーマンが出世のエスカレーターも無く(もしくは出世してもしんどいだけ)、単にこき使われるだけでたいした昇給も無い。多くの人が「生かさず殺さず」の状況の中で、出口が見えずにもがいているのではないだろうか。

そんな時代だからこそ「一人で勝負」の生き方を、あらためて考えさせられる。果たして自分の人生の時間を搾取されない生き方は可能なのだろうか。永ちゃんの生き方(=ビジネス)を通して考えていきたい。(次回に続く)

 

 

[ライタープロフィール]

村上稔

(株)Tサポート代表取締役 沖縄国際大学特別研究員 元・徳島市議会議員。

著書『希望を捨てない市民政治』『買い物難民を救え!移動スーパーとくし丸の挑戦』『歩く民主主義』(緑風出版)『ひとびとの精神史第8・9巻』(共著・岩波書店)ほか。