歩く民主主義 第5回

  

第5回 田舎は都市の社畜牧場か

村上稔

 

キツいタイトルを思いついて自分でげんなりしてしまうのだが、このところのいろいろを考えると思わずこんな風に言ってしまいたくなるのである。

僕が住んでいる徳島県の人口は、小・中学生の頃は86万人と教わっていたのだが、現在は73万人。30年ほどで13万人も減ってしまった。

毎年の減少数は7千人。人口73万人中の7千人だから、毎年、町が丸ごと一つ無くなってしまうぐらいの衝撃なのである。

 

数日前の徳島新聞のトップニュースは「そごう徳島店閉店へ」。日本百貨店協会によると、徳島は「全国で唯一百貨店のない都道府県」になるらしい。

県外から初めて徳島に来るお客さんを案内すると、皆さんまるで何も無い田舎を想像してくるらしいのだが、駅前にそびえるそごうを見て一様に「思ったよりマチだね」と言ってくれて、それがちょっぴり誇らしい徳島県民だったのだが、その拠り所もついに失うことになってしまった。

服を買う場所としては巨大モールが数カ所ある。しかしこの巨大モールというのはその実、田舎の象徴だ。野球場よりも広大な店舗面積と駐車場を確保しようと思ったら、土地がいくらでもあって安く借りられる田舎しかないのだから、巨大モールはだいたい田園風景の中にあるのである。そしてそれは自動車での来店を前提にしている。日本は田舎ほど車頼りの生活なのだ。

そう言えば我々にはもう一つオンリーワンがあって、徳島県は全国に誇る(?)電車ゼロメートル県なのである。何かというと電車の代わりに「汽車」が走っている。これを言うと皆さんビックリする。徳島ではデゴイチのような蒸気機関車がいまだに走っているのかと。機関士が汗を吹き出しながらスコップで石炭を掬っては釜に放り込んでいるのかと。

もちろん徳島県の汽車は蒸気機関車ではない。蒸気じゃなくてディーゼルで客車を引っ張るのが我々の汽車。見た目は電車と変わらず、ただパンタグラフと架線が無いだけなのです、はい。

 

閑話休題。百貨店というのはそもそも文化的生活の情報発信拠点でもあった。ちょっと良いブランドの服を見たり買ったり、美術展やカルチャークラブが開催されたりして、全国の文化レベルを感じ、知る場でもあったのだ。いざこれが無くなるとなれば、やはり取り残され感は否めない。

しかしまあ、これも昭和平成的消費生活の名残といえばそうだろう。なので、全国で唯一百貨店が無い県はある意味、最先端と言えるのかもしれない(そう思うことにしよう)。

 

僕が学生の時に明石海峡大橋と大鳴門橋が開通し、徳島県と関西は地続きになった。当時言われていたのは、これからは本州から新しいものが次々と入ってきて徳島県はドンドン発展していく、というものだった。

ところが現実は正反対のことが起こった。

徳島県からドンドン人が出て行き、ブランド服などの買い物は神戸や大阪でするようになった。それまで徳島駅周辺には3軒の百貨店があったのだが、ひとつ、またひとつと消えて、そごう1店舗だけになってしまっていたのだ。

いわゆるストロー現象である。

我々は関西にストローを突っ込んでやった、と勝手に思っていたのだが、突っ込まれたのはこちらの方で、以降、徳島県の産業、中でも小売業は衰退の一途をたどっていったのである。当時の政治家や徳島県民は「熱力学第二法則」を知らなかったのだ。それは、人間はより刺激的で欲望を満たせる土地へ移動していくというかの有名な法則である(嘘)。

 

ともあれ我々は毎年、若者7000人を都会に「供出」している。

腹が立ったのは、先日、子どもの大学進学説明会に参加した時だった。進学説明会といえば、18年間も汗水流して育ててきた子どもの、希望に満ち溢れた未来が語られる場でなければならないはずだ。

ところが校長の挨拶のあと、一番に登壇したのはなぜかスーツを着たファイナンシャルプランナーのお兄さん。そして開口一番、「皆さん安心してください。大学にいくお金は借りることができます」といって、奨学金の説明を始めたのである。

そもそも奨学金という言い方が間違っている。それはローンそのものである。貧者でもローンで希望を買えますよ、というわけだ。その裏で「人生の時間を差し出してくださいよ」と言う説明が隠されている。

18歳まで田舎で飼育し、ローンを借りさせて都会の大学に進学させ、ローンを返すために田舎に帰れない。これじゃあ田舎はまるで都会の社畜牧場じゃないか。

なんだか愚痴ばかりになってしまったが、これが田舎の現状(=この国のシステム)だ。何よりも問題なのは、このようなシステムの中では、そもそも人が幸せになるのが難しいのではないだろうか。それを考えると、これはやはり見過ごせる問題ではないなあ、と思ってしまうのである。

 

[ライタープロフィール]

村上稔

(株)Tサポート代表取締役 沖縄国際大学特別研究員 元・徳島市議会議員

著書『希望を捨てない市民政治』『買い物難民を救え!移動スーパーとくし丸の挑戦』『歩く民主主義』(緑風出版)『ひとびとの精神史第8・9巻』(共著・岩波書店)ほか。