歩く民主主義 最終回

  

最終回 神さまからの贈り物

村上稔

 

コロナウイルスのせいで私が副業で経営しているゲストハウスもキャンセルが相次ぎ、これ以上長引けばいよいよ何らかの決断もあり得る事態に追い込まれてきた。

甲子園が中止になったが、球児たちもかわいそうだけれども周辺の旅館などは泣きっ面に蜂だろう。宿泊業は一年の売上の波が大きく、稼ぐ時に稼いでその収入で後を回しているような所があるので、農家でいうと畑の作物が全滅したみたいなものだ。蓄えのない所は閉めるしかなくなる。飲食業なども同様だろう。いや、というかほぼ全ての仕事に深刻な影響を及ぼしているのが今回のコロナ騒ぎである。

株価も暴落している。私も柄にもなく『テンバガー超有力銘柄20&注目銘柄2020株バブル!10倍株量産の予感』(彩流社刊)なる本の教えに従って幾つかの株を仕込んでいたのであるが、コロナの収束を甘くみて逃げ遅れ、この2ヶ月で資金は見るみる溶解して茫然自失、いわゆる塩漬けの状態なのである(どうしてくれる彩流社w)。

いや冗談ではない。実際に経済的に追い込まれた自死の方がコロナの死者を上回るのではないだろうかという不吉な想像さえ現実味を帯びてきた昨今である。

 

愚痴のひとつも言いたくなる。まあしかし安倍さんが悪いと言ってみても虚しいし、誰かのせいにしても何もことは始まらない。みんなどうしているのだろう。

僕の場合はこんな時、神様を恨むのが常だった。「だった」というのは、今は違うからだ。

一昨年の夏のこと。僕はいつものように、母親の実家の近くのビーチで一人、海パンになって泳いでいた。めちゃきれいな海なのだが、海水浴場じゃないので誰もいないプライベートビーチだ。

そこで僕は泳ぎながらいつものように神様に文句を垂れていた。「オレはこんなに努力をしているのに、なぜ幸せにしてくれないんだよ。たまにはおいしい話もくれよ。戦争とか、大地震とか、格差社会とか、病気とか、コロナ(後付け)とか、何で神様はオレたちに意地悪ばかりするんだよ」などなど。

そして海から上がり、砂浜に足を投げ出して座り、水平線をぼんやりと眺めていた時、突如として神様からの反論が降りてきたのである。

「バカ者!お前は全然わかってない。我々神がお前たちにどれだけ素晴らしいものを惜しみなく与えてやっていると思うのだ。いい加減にしろ!」と。

「例えばおいしい食べ物。考えてもみろ。和食、イタリアン、フレンチ、中華、寿司、ハンバーガー……素材の組み合わせで永遠に追求してもし切れないほどの舌の楽しみを与えてやったのだぞ。それから世界の風景や色とりどりの花、サンゴ礁や熱帯魚の美しさなど、お前らの目を楽しませてやってるのは誰のおかげと思ってるんだ。他にも感動的な芸術、文化、音楽。娯楽やテクノロジー、快適な家に暖かい布団……。ああ情けない。我々神が日夜努力してお前たちのためにこれだけ豊かな世界を用意してやったというのに。さらにはお前らが自分たち自身で無限の可能性を追求できるように、人生を退屈しないように、つまりDIYの楽しみまで残してやっているのだぞ。ああ、どんだけ人間に気い使ってるねんオレら。ここまで言うてもお前はアホやから気付かんやろ、そのDIYっていうのは別の名を「希望」っていうんや。わかったか」。

神様の反論を要約すると、ざっとこんなところだった。ここまで言われて私はようやく悟ったのである。神様に文句を言うのは間違っていると。

確かに世の中は苦しいこと、辛いことに溢れている。平穏な時があっても長続きはしない。次から次へと苦しみの波はやってくるのである。しかしそれでも、この世で生きていく楽しみもまた、尽きないものがあるではないか。ただの塩おにぎりでも、腹が減っていれば死ぬほどおいしいし、小さな波でもサーフボードの上に立ってグッと自然のパワーに押されれば、その瞬間に「生きてて良かった」と思えるのだ。考えてみると神様は、そんな生きる喜びを、めちゃくちゃたくさん与えてくれているのだ。不足ばかりに目を向けていてはバチが当たる。

 

一説によると、筋骨隆々やボンキュッボンのプロポーション完璧の古代ギリシア彫刻は、「我々人間はあなたたちが与えてくれた肉体をここまで美しく磨いています」というアピールで神々を喜ばせているという。壁画などにも、裸の男たちが競い合うものが見られるが、あれも鍛え上げた肉体と技を謳歌することこそが、神の意志に添うものだと考えられていたらしい。

さて、神様の話をしていたのにいきなり中国古典で支離滅裂だが、老子の言葉に「知足者富 自知者明」というのがある。足るを知る者は富む、自らを知る者は明(めい)と読む。僕はこの言葉を「目の前にあるものの素晴らしさに気づくとともに、他と比べず、自分自身のポテンシャルを掘っていくと希望があるよ、どこまでも明るいよ」という意味に捉えている。

ふむ、みんな、少々人生の荒波が来たところで落ち込むことはないよ。おいしいものでも食べて元気を出して行こうよ。そのうち株も上がるだろう……頼みますよ、ホント神様。

 

 

[ライタープロフィール]

村上稔

(株)Tサポート代表取締役 沖縄国際大学特別研究員 元・徳島市議会議員

著書『希望を捨てない市民政治』『買い物難民を救え!移動スーパーとくし丸の挑戦』『歩く民主主義』(緑風出版)『ひとびとの精神史第8・9巻』(共著・岩波書店)ほか。