赤毛のアンのお茶会 第17回

  

第17回 ギルバートはアヴォンリー村のどこに住んでいる?

 

南野モリコ

 

『赤毛のアン』への想いをひたすらつぶやくだけのコラム、第17回となりました。新型コロナウイルスの迷宮に出口はあるのか不安な時に、このコラムで少しでも笑顔になってもらえたら嬉しいです。

 

アヴォンリー村の地図を作ってみた

『赤毛のアン』は作者モンゴメリの少女時代を元に描いた作品であり、舞台となるアヴォンリー村は、彼女が育ったキャベンディッシュをモデルとしているので、村の様子がかなり具体的に描写されています。アヴォンリー街道からグリーン・ゲイブルズまでの小径に並ぶ木立や咲いている花の様子。ただ美しいだけでなく、どんな種類の花々なのか、茂みに棲む生き物たちの蠢きなど、まるで実際にある村を案内しているかのように生き生きと表現しています。

 また、街道の名前やその道が村の家々の中なのか、海沿いなのかも詳しく書かれ、読者である私たちでさえ、アヴォンリー村の地理に詳しくなっていきます。

 そこで、深読みに深読みを重ねた筆者モリコは、暇を持て余すついでに、ついにアヴォンリー村の地図を作ってしまいました。イラストは、いつものように夢野みよこ先生にお願いしました。

 

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 本コラム第5回でも書きましたが、ギルバートの『赤毛のアン』本編での登場場面はごくわずかで、彼に関する情報も限られています。アンが転入した日に「にんじん」と呼んで石板で頭を殴られて以来、ギルバートはアンに名前すら口にしてもらえないほど嫌われてしまったからです。

 ギルバートの家がどこなのか、分かる筈もないように思いますが、実はギルバートの家のある場所がはっきりと書かれている個所があります。第38章で、アンはマシューの眠る墓地に出かけて行きますが、その帰り道に、ブライス家の木戸から出てきたギルバートと偶然、出くわすのです。

 眠っているマシューと話し終えたアンは、立ち上がると「輝く湖水に向かっていく長い坂」を下りていきます。つまり、墓地は<輝く湖水>と名付けた川のような池が見渡せる場所にあり、ギルバートの家はその坂道を下ったところなのです。ギルバートの家は、アンがアヴォンリー村に来て初めて名前をつけた<輝く湖水>の畔であり、マシューの眠る墓地とも近いというわけですね。

マリラが昔の恋を胸に秘めて生きてきたのはなぜ?

 

 あくまで筆者モリコの想像の地図ですが、あながち間違ってもいないのではないかなぁと自負しております。それは、グリーン・ゲイブルズとギルバートの家との「距離」です。筆者が深読みして作った地図では、両家は離れた場所にありますが、この2つの家族につきあいがないことは、物語からも感じられます。

 そのひとつが「にんじん事件」です。アンが学校に行かないと言い張った時、マリラはリンド夫人に相談しますが、マリラもリンド夫人もアンをからかったギルバートについては一言も触れませんでした。

 マリラは若い頃、ギルバートの父、ジョン・ブライスと恋仲で、喧嘩別れした過去があったのです。

 マリラの胸の奥深くに秘めた恋は、第37章で初めて語られるのですが、何かと言えば「〇〇家の人間は!」と一族を総まとめで罵るアヴォンリー村で、「学校に行かない」と言い張るアンを前にして、マリラがギルバートについて何も言わないのは、カスバート家とブライス家の間に「距離」があるからですよね。

 ギルバートの家が<輝く湖水>のほど近くであることは、「エレーン姫ごっこ事件」からも想像できます。第28章で、同級生の女の子たちと学校の国語の授業で習ったエレーン姫のごっこ遊びをしている時、エレーン姫役のアンが小舟で流され、沈没して橋げたにしがみついているところに、偶然にもギルバートが小舟を漕いでやって来るのです。

 この時、ギルバートは1人だったので、遊んでいたとは思えません。乗っていたのが「ハーモン・アンドリューズさんの小舟」と限定されているので、恐らく家の手伝いをしていたのでしょう。ギルバートの家が、<輝く湖水>の近くであってもおかしくありません。

 それにしてもマリラは「にんじん事件」以降のアンとギルバートの関係をどう思っていたんでしょうね。

 アンは、「ギルバートなんか大嫌い。名前も口にしない」と言っている割には、マリラの前でギルバートの存在をちょいちょい「匂わせ」ています。

 第20章でギルバートは、アンが大好きなメイフラワーをプレゼントします。アンは家に帰って「ある人ももらったけど、その人の名前は2度と口にしないと誓ったの」と無理に怒ったふりをして(読者からはそう見えますよね)話しますが、マリラは何も言いませんでした。

 マリラの心は、宝石箱のようです。古い恋の想い出に鍵をかけて、大切にしまいこみ、やがて持っていたことも忘れていたのでしょうね。

 第37章でマリラは、昔、ギルバートの父親ジョン・ブライスと恋人だったこと、喧嘩別れした苦い過去があることを打ち明けます。

「先週、久しぶりに教会でギルバートを見かけて、忘れていたことを何もかも思い出したよ」。

 ギルバートは、病気の父親の付き添いでカナダ西部のアルバータに行き、3年間も学校に行かなかったくらいですから、学校に通ってからも、家の農作業を手伝っていると思われます。畑に出ていたら顔を見ることくらいはあるでしょう。「教会で久しぶりに見かけた」ということは、ギルバートの家はグリーン・ゲイブルズから物理的に遠いということでしょう。

 

 というわけで、マシューの眠る墓地の近くで、<輝く湖水>からほど近くに、ギルバートの家を設定しました。

 同じアヴォンリー村に住んでいても、マリラにとってのジョン・ブライスは、恋をしていた頃のまま。永遠に年をとらない青年だったでしょうね。ま、単なる深読みですけどね。

 

参考文献

モンゴメリ著、松本侑子訳『赤毛のアン』(文藝春秋、2019年)

 

 

[ライタープロフィール]

南野モリコ

『赤毛のアン』研究家。慶應義塾大学文学部卒業(通信課程)。映画配給会社、広報職を経て執筆活動に。Twitter:モンゴメリ『赤毛のアン』が好き!

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