赤毛のアンのお茶会 第13回

  

第13回 なぜアラン牧師夫人はアンをお茶会に招待したのか?

南野モリコ


彩マガ、リニューアル、おめでとうございます。当コラムもプチ模様替えをして、夢野みよこ先生にイラストを描いて頂くことになりました。『赤毛のアン』読者歴、四半世紀以上の筆者が独断と偏見で作品を深読みしていくというスタイルは変わらず、ますますパワーアップしていこうと、新型コロナウイルスの猛威も無視して、鼻息ふがふが、やる気満々です。紅茶を飲みながら、「ふ~ん、へぇ~、そんな見方もあるのねぇ」と、気楽にお楽しみください。外出自粛中の暇つぶしになれば幸いです。


19世紀は「礼儀作法」大流行の時代だった


さて、『赤毛のアン』には大小様々なお茶の時間が6回、登場します。そのうち、お茶会が出てくるのは、いちご水事件、レイヤーケーキ事件、ダイアナの誕生会にいとこたちが集まった「完璧にエレガントなお茶会」、そして、アラン牧師夫人から招かれた「牧師館のお茶会」です。
第22章の牧師館のお茶会、ちょっと不思議なエピソードだと思いませんか? アンが「牧師館のお茶会に招待された」と大興奮しているのに、肝心のお茶会の様子は、アンがマリラに報告する長~いおしゃべりで語られるだけです。アンが大人の階段を上り始める記念すべきお茶会なのに、さらっと片づけられているようで違和感があります。
お茶会に招待されたことでのぼせているアンを見ながら、マリラの頭に浮かんだのは礼儀作法。筆者は、この章のテーマは「礼儀作法」ではないかと深読みしています。
『赤毛のアン』の舞台となっている19世紀後半は、カナダはまだイギリス自治領。19世紀イギリスは、礼儀作法が注目された時代でした。18世紀まで礼儀作法の中心地はフランスだったのが、革命が起こり国が混迷したため、産業革命で経済的に発展したイギリスに礼儀作法の聖地が移動したのです。19世紀後半は、印刷技術が改良されたため、礼儀作法の書物が量産されました(春山行夫『エチケットの文化史』参照)。

アンも「グリーン・ゲイブルズに来てから、ファミリー・ヘラルド新聞の礼儀作法欄を読んで勉強した」と言っています。新聞に礼儀作法欄があるくらいですから、マナーやエチケットへの関心が今よりずっと高かったのでしょうね。
牧師館のお茶会場面にちょっと違和感を覚えるのは、礼儀作法の意識の違いからくるものかもしれません。もっとも、筆者もアンと同じ11歳の頃は、マナーや作法を覚えるのに熱心で、本棚の『赤毛のアン』の隣には少女向けのマナーの本がありました。単に、筆者が下品になっただけかもしれませんけどね。


アラン牧師夫人がアンに「野心」を教えた?


19世紀に礼儀作法が注目されたのは、産業が発達し、経済的に豊かになった人たちが、今より上の階級に行きたいという愛すべき野心を持ったからです。

立身出世して裕福になったとしても、礼儀作法を知らなければ、上流階級の人たちと付き合っていけませんからね。礼儀作法の流行は、階級社会における上昇志向の表れだと思って間違いないでしょう。

礼儀作法には面白い歴史があります。村上リコ著『英国社交界ガイド エチケット・ブックに見る19世紀英国レディの生活』(河出書房新社、2017年)によると、礼儀作法の本とは、元々は男性がビジネスで出世するためのものだったそうなのです。今のような挨拶や言葉づかいが礼儀作法となったのは、19世紀以降、女性の活動の場が家から外に向かうようになってからだとか。

女性は挨拶やお付き合いの上でのマナーがあるかないかで、格付けされ、ヒエラルキーの上下が決まっていくというわけなのですね。ヴィクトリア時代にあったと言われる堅苦しさは、礼儀作法の流行が一因となっているのかもしれません。


ところで、お茶会に招待されて有頂天になっているアンに、マリラは「日曜学校のクラス全員を順番に呼んでいるだけ」と冷静な意見を言っています。アラン牧師夫人が子どもたち全員を招いてお茶会を行ったのは、将来、どんな階級の人とも付き合っていけるようにという想いからの教育だったのではないかと筆者は深読みしました。

本稿第7回にも書きましたが、『アンの青春』第39章でアラン牧師夫人は、「母の思い出はひとつしかない」と言っています。牧師という当時のエリートと結婚した彼女ですが、もしかしたら不遇な境遇で育ったのかもしれません。

アラン牧師は、長くてつまらないお説教をする前任のベントリー牧師と違い、話も面白く、「心からお祈りをする」とアンも認める素敵な人のようです。モンゴメリも牧師と結婚していますが、当時の牧師の妻といえば、今の医者と同等のステイタスがあったとか。

子どもの頃は恵まれなかったけど、今は幸せになった。人生はどんな風に開けていくか分からない。アラン牧師夫人は子どもたちの未来に希望があふれるよう、お茶会に招いたのかもしれませんね。ま、単なる深読みですけどね。

参考文献
モンゴメリ著、松本侑子訳『赤毛のアン』(文藝春秋、2019年)


[ライタープロフィール]
南野モリコ
『赤毛のアン』研究家。慶應義塾大学文学部卒業。映画配給会社、広報職を経て執筆活動に。Twitter:モンゴメリ『赤毛のアン』が好き!

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