本書について──訳者まえがき 大図建吾
歴史上の「人間」との出会い──はじめに 尹姫珍
Ⅰ 古朝鮮〜三国時代(高句麗、新羅、百済、伽耶)
1 檀 君 2 朱 蒙 3 沸流と温祚
4 朴赫居世 5 金首露王 6 広開土大王
7 王 仁
対比列伝*聖王と真興王 /*元暁と義湘
8 淵蓋蘇文 9 義慈王 10 善徳女王
11 金春秋 12 金庾信
*韓国歴史ドラマスターの「ヒーローとヒロイン」カラー4ページ
Ⅱ 南北国時代(統一新羅、渤海、後三国)
1 張保皐 2 崔致遠 3 大祚栄
4 甄 萱 5 弓 裔
Ⅲ 高麗時代
1 王 建 2 光 宗 3 崔承老
4 徐 熙 5 李資謙 6 金富軾
7 崔忠献 8 萬 積 9 李奎報
10 一 然
対比列伝*忠烈王と忠宣王
11 恭愍王
対比列伝*奇皇后と魯国大長公主
12 崔 瑩 13 崔茂宣 14 李 穡
15 鄭夢周
コリア史ミニ事典/年譜
ドラマに描かれた人物 網谷 雅幸
王朝系図
コリア史年表[古代・三国〜高麗時代]
索引
【はじめに 歴史上の「人間」との出会い――著者まえがき】
尹姫珍
正直に告白すれば、中・高等学校時代、私は「国史〔韓国史〕」という科目にあまり親しみが持てなかった。国史教科書と参考書1冊に頼っていた私にとって国史は、無数に登場する聞き慣れない名前と用語、そして年表などを頭の中に押し込むように暗記しなければならない、うんざりする科目でしかなかった。
金庾信─三国統一、光宗─奴婢按検法、金堉─大同法といった式に、国史の本に登場する人物たちは公式化され、私は彼らが「人間」だという事実についぞ気づかなかった。
私がわが国の歴史に少しずつ親しみはじめたのは、本をつくる職業についてからだった。偶然なのか運命なのか歴史関連の書籍をたくさんつくり、また時には執筆に加わったりしながらわが国の歴史に次第にはまり込んだ。とくに歴史上の人物に関する本を興味深く読んだのだが、そうした本を読みながらようやく歴史の中の人物たちを、「公式」でなく「人間」として出会いはじめた。
伽耶の子孫だという身分的制約を挽回するために金庾信がどんな努力をそそぎ、またどんな政治的選択をしたのかがわかってきて、金庾信と金春秋の結びつきでなされた三国統一過程がいっそう迫真力を持って脳裏に描かれた。高麗の光宗がどれほど熾烈な過程を経て王位に就いたかがわかってきたので、豪族勢力を抑えるために実施した奴婢按検法にどんな意味があるのか理解できた。また、金堉が光海君代に大北派の弾圧を受けて10年余り火田を耕し、炭を焼いて売るなど農民のように暮らしたという事実は、彼がなぜ大同法施行に生涯を捧げたのか、暗記しなくても理解できるようにしてくれた。
遅咲きの私の狭い知識だが、いまわが国の歴史を学んでいる学生たちにいくらかでも役に立てればうれしい。もう一歩進めて欲を言えば、一人ひとりに与えられた紙面は狭くはあるが、国史の本の中の剥製化された人物ではなく、一人の人間として読者が近づくことができれば、それ以上望むところはない。
この本を構想し執筆したこの3年余りは、私にわが国の歴史をいまいちど勉強し整理する貴重な時間だった。なによりもこの本を書きながら参考にした数多くの歴史書著者たちに感謝の言葉を申し上げなければならない。その方々の研究があったからこそ、この本の執筆は可能だった。
2006年9月 ソウルにて
【本書について――訳者まえがき】
大図 建吾
原著は『教科書に出てくる韓国人物史話』(ソウル「本と共に」社、2006年)で、邦訳では三分冊とした。古代から三国時代(高句麗、百済、新羅)、統一新羅〜後三国と渤海が併存した南北国時代、そして高麗時代までを、第一卷の本書では扱っている。
著者の尹姫珍女史に私はまだお目にかかる機会を持てないでいるが、梨花女子大を卒業したのち雑誌などの出版社で仕事をして来られた、広い意味でのジャーナリストだと承知している。尹女史は執筆意図をこう語っている(「はじめに」)。
「いまわが国の歴史を学んでいる学生たちにいくらかでも役に立てればうれしい。もう一歩進めて欲を言えば、一人の人物に与えられた紙面は狭くはあるが、国史の本の中の剥製化された人物ではなく、一人の人間として読者が近づくことができれば、それ以上望むところはない」
自らの学生時代に受けた、ただ暗記するしかない干からびた「歴史」から学生たちを救い出し、人の血が通った本当の歴史を伝えたいという思いから、尹女史はいまも青少年に向けていろいろな角度から見た生きた韓国の歴史を紹介し続けておられる。
このように著者は学者・研究者ではないから、この本の中には新しい独自の見解のようなものは無い。その代わりにあるのは、さまざまな立場の専門研究者たちの研究成果にくまなく目を配り、それらを若者にわかりやすく伝えるために良心的なジャーナリストの感覚でバランスよく整理した解説であり、取りあげた人物もあくまで韓国の「教科書に出てくる」歴史上の人物に限定されている。その意味でこの本は、青少年の歴史常識に血を通わせることによって、過去の歴史を現代に生きる若者と向かいあわせてくれるすぐれた啓蒙書だと言えるだろう。
邦訳に当たっては、いわゆる韓流時代劇、韓国歴史ドラマとの関連を意識した編集になっている。その理由にもつながるので、訳者の私事から語ることをお許し願いたい。
私は定年退職して10年を過ぎた高校の元歴史教師で、現役時代から「歴史教育者協議会(歴教協)」の一員である。そして歴教協は2001年から韓国の「全国歴史教師の会」と交流していて、その一環として日韓共通の歴史副教材を開発しつつある。その成果の一部はすでに2006年、『向かいあう日本と韓国・朝鮮の歴史(前近代編)』(青木書店)として出版された。まもなく2012年にはその近現代編も出る予定である。私は日本側編集委員の一人だが、韓国側編集委員長の朴中鉉先生から1冊の本をプレゼントされた。それが原著であった。朴先生の意図はおそらく、韓国語をそこそこに解する私がこれを訳して、日本側編集委員や執筆者の韓国史への理解をもう少し高めてほしいと思ってのことだろうと私は解釈した。
文字通りの拙訳を仕上がり次第に関係者にメールで送るとたいへん好評だった。中でも韓流歴史ドラマにはまっている人からはとくに歓迎され、「ドラマを見ながらいつも思うのは、どこまでが史実でどこからはフィクションなのかを知りたかったのだが、これでだいぶ解けてきた」という反応があった。そこで歴教協とは関係ない韓流フアンの方々にもお見せしたら大いに喜ばれ、早く本にしてもらえないかとおっしゃる方が多かった。
そんなころ日本にある韓国の歴史遺産の返還を求める人たちの小さな集まりで、たまたま隣に居合わせた人が出版関係者だと聞いたので、雑談の中でその話をした。これが始まりで、その後どんどん話が膨らんだ結果がこういう形での出版になった次第である。
(中略)
『冬のソナタ』から始まった日本の韓流ブームは、歴史的に大きな功績を生んでいると私は考える。それまで大概の日本人にとって韓国・朝鮮はほとんど見えていなかったからである。私が教師だったとき生徒たちに世界地図を描かせると、中国大陸はあるが朝鮮半島は無いものが少なくなかった。だが今はもうそんなことはない。韓国・朝鮮に対して閉じていた日本人の文化的関心の扉を韓流ブームは大きく開いたのだ。その意味でできることなら主演のヨン様(ぺ・ヨンジュン)とジウ姫(チェ・ジウ)には、文化勲章とまでは行かなくとも文化功労賞くらいは贈りたいものだと私は真面目に思う。それが最近では歴史ドラマ、時代劇も人気を集め、ファンは中年女性から老若男女に広がってきた。
しかし、朝鮮半島に生きてきた人々のあるがままの姿を、私たちが隣人への共感を持って理解するようになるには現状の韓流ブームだけでは不十分だろう。このブームによって広まった関心が実りあるものになるには、ドラマだけでなく文化、芸術、社会、歴史などの広い分野にわたるより深い理解が求められる。これは日本が本当に世界に開かれた国になるために不可欠な過程だと思う。この本がそのささやかな一助になることを願うものである。
訳書という性格から、お断りしておかなくてはならないことがいくつかある。
原著の脚注は文中に( )で入れ、〔 〕で補った訳注の文責は訳者にある。生没年、在位期間などは研究者によって異見のある場合もあるが、明白な誤記と判断できない限り原著の記述に従った。「わが歴史」のような表現は、時に「コリア史」と訳し、邦題にも使用した。
いちばん悩んだのは人名、地名など固有名詞のルビだった。韓国語の発音は日本語のそれとは異なるのでカタカナ表記に無理があるのは当然だが、たとえば姓と名を続けて言う場合と離して言う場合とでは日本人の耳には違って聞こえてしまう。こうしたルビの付け方については定まったルールがなく、姓と名のルビは離すなど訳者なりの原則を立てて処理した。
網谷雅幸氏にはコラム「ドラマに描かれた人物」および口絵を執筆いただいたが、ドラマの日本語放映版と対応させたので本文と必ずしも一致していない。ご寛容をお願いする。
索引の作成に当たっては、韓国語ルビを付したものはそのカタカナ読みで、そうでないものは漢字の日本語読み(適宜ひらがなルビを付した)を採ったが、読者がどちらになじんでいるかにより使い勝手が異なると思われる。どちらか一本にできない過渡期であり、それがまだまだ続くであろう。第3巻では「人物総索引」を予定している。
各時代の王室系図と扉裏の登場人物の生没一覧および扉の地図は原著に無いもので、日本の読者の便を考えて不十分ながら独自に作成した。思わぬ誤りはご叱正いただければ幸いである。
(社)日本図書館協会 選定図書 人物評伝で辿る韓国・朝鮮の歴史! 全3巻刊行開始! 韓流歴史ドラマをより楽しく見るためにも必読の書!
● 無味乾燥な教科書に登場する人物の生涯と業績、評価を分かり易く記述。
関連する重要事項にはミニ解説を付け、韓国史に血を通わせた“副読本”
● 人物・地名等に韓国語読みのルビを付けて、これまでの漢字の日本語読みと併用を図った。
● 各人物の年譜、王朝系図、歴史年表を付けただけでなく、ドラマ化された
人物にはドラマのデータとドラマのなかでの位置を解説―
より身近に隣国の歴史理解に役立つ編集にした。